♂愛しくて、無邪気な会話を重ねようよ(黄瀬)


※「だからどうか、覚えておいて」続
♂×♂表現注意

あのときのこと。よく覚えてる。棄てられるそれは、この現代社会で腐る程見てきた。俺が高校生の頃には、もう普及していた。パートナーアンドロイドというものが。仕事をする上で、そりゃ自分がもう一人いれば便利だなーとか、話し相手になってくれるかな、とか。文句の一つ言わないで、俺を、俺自身を受け止めてくれるの、かな…とか。そんなこと考えて。だから足がショップへ向かって…。やめた。店頭に並ぶアンドロイドは俺を見て愛想笑いして頭を下げてきた。…こう、機械じみたもの。俺が求めるのは、こういうのじゃない。もっと、人間らしい…そんな

『メイン関節機能がやられただぁ!?』

誰か、怒ってんな。多分アンドロイドだと思うけど。

『ったく、買ったばっかりなのにさっさと壊れやがって!!お前なんかスクラップだ!』

うわ…買った瞬間壊れるとか、そういうこともあるんだ…。でもそれってR型だからッスよね?じゃあSS型とかは?確か、桃っちが親に買ってもらったって…。確かに人間みたいに感情豊かだった。少なくとも、目の前にいるこいつより。

『…!』

業者を呼ぼうと携帯を耳に当てているその男の隣で、そのアンドロイドはこっちを見た。無表情に温度のないような顔。背は高くて黒髪にかかる瞳はヘーゼル色の虹彩。神秘的に見えて…なんだろう。どこか、寂しそうな…。もう諦めたって顔が、もしかしたら同情だったのかもしれないけれど。どこか、昔の自分に似ていて。

『すいません!そいつ、いらないなら俺に譲ってくれないッスか?』

気づけば、そんなこと言ってて。その男も解体費がかからなくて助かるって快く譲って貰って。俺、アンドロイドとか初心者過ぎたから、契約がいるのとかわからなくて。

『はじめまして!俺の名前は黄瀬涼太!高校までモデルとバスケやってた!バスケなら、結構強いッスよ!』

自己紹介して。それでも、アンドロイドは俺を見返すばかりで、なにも言ってくれない。あ、あれ?なんか目から出てる。最近のアンドロイドって涙とか流せるのか。

『へえ、最近のパートナーアンドロイドは涙も流せるんスかぁ!』

あれ?でもなんで泣いてんの?声をかけようとして気付いたけど名前ってあるの?

『ねえ、名前ってあるの?』

そのアンドロイドは、黙って首を横を振った。なんだ、名前ないのか。じゃあ俺が付けて…いいんスよね?これ。うーん、いざって言われても…。

『んー、じゃあ男主名前ってどうッスか!?実はこの名前、初主演した俺のドラマの役名なんス!』

そうだ、一番思い出深い男主名前!初主演ドラマで、まじで嬉しくて。

『これから、よろしく!!』

男主名前は、意外と人間味があった。でも頑なに笑ってはくれない。俺が笑わせようと色々しても、見つめ返されるだけで。そうッスよね、スクラップ寸前で、今更人間を信用しろって方が…。て、なんで俺こんなこと?だってアンドロイドって人間が造った機械人間。気を遣う必要も、ない…だけど。こんなに人間の形してるのに、違うって言われても。男主名前が来てから。二人暮らしが、楽しくなった。いや、正確には一人と一台だけど。ある程度のことはできるし、それに不満はない。それに俺の為になにかしようと考えるようになってたりするし、学習型、なのかも。黒子っちに聞いてみようかな…。確か黒子っちもパートナーアンドロイド、R型持ってるって聞いたことあるし!

『あ、黒子っちッスか?久々ッス!』
『黄瀬君、お久しぶりです。どうしたんですか?』
『黒子っちもパートナーアンドロイドいたでしょ?俺もこの間R型のを、成り行きで引き取ったんだけどR型って学習型なんスか?』
『え…学習?』
『そうッス、なんか最初ぜんっぜんなにもしなかったのに最近はよく俺の身の回り世話したり』
『そうなんですか、まあ教えれば実行しますけど』
『教えてないんスよ!だから見て覚えるのかなって。それに最近のアンドロイドは涙機能とかついてるんスね、吃驚したッスわ』
『……黄瀬君、いま、なんて言いました?』
『え?あぁ、涙ッスか?結構流してるんスけど、壊れた感じッスか?』

関節機能がやられたって割りには普通に動こうとするし、涙はしょっちゅう流してる。

『…おかしいですよ、アンドロイドは涙なんて流せません』
『え?』
『恐らく、黄瀬君のパートナーアンドロイドは…』



黒子っちの話聞いた時、すぐに男主名前連れてどこか行けばよかった。結局、アンドロイド協会に男主名前を奪われて。俺の目の前で、その頭の中の回線をぶち切られた。

『……とっくに、貴方をパートナーだと認識していました』
『黄瀬さん』
『おれを拾ってくれて、ありがとう』
『大好きでした』

頑なに笑顔なんて見せなかった。男主名前の顔が涙と共に、綻んだ。なんで、そんな最後になって。それから新しいSS型のアンドロイドを親に勧められて購入したけど、俺は男主名前が忘れられなくて。スクラップになったらどうなるんだろうとか。もしかしたらどっかにいるんじゃないかとか。そんな、何分のなにの確立。

「あるわけないのに」
「なにがですか?」
「いや、あんたの前に居たアンドロイドの事ッスよ」
「主、本当大事なんですね」
「…まあ、そうッスね」

そろそろちゃんとけじめつけないと。いつまでと未練引きづってたら、堪らないッスもん。

「主」
「?」
「初めて主に会ったときの事おれ覚えてます」
「…SS型だから上等な箱に入ってたッスよねぇ」
「はい、俺は最初貴方がパートナーではありませんでした」
「は?」

あれ、バグ?

「人間の経費削減で働く為に契約されたおれは、稀に見る欠陥品で買われてすぐに関節機能を破損、スクラップになる寸前でした。アンドロイド故になにも感じませんでしたけど、貴方が、拾ってくれました」

なんで、そのこと知って…。

「主がおれを笑わせようとしてくれたこと、役に立ちたくて学習機能なんかないのに、必死に色々なことを覚えたこと」

だってこれは、SS型とじゃない。

「主の初主演ドラマの役名から」

その思い出は、

「男主名前と、名前を付けられたこと」
「…なんで、知ってるんスか…だって、それは…」

そういえば、ずっと男主名前のことばっかりで、SS型の顔をまともに見たことなかった。目の前の顔は、あの顔とは違って、さらに整っている。髪は明るい飴色で、色白で。だけど、瞳の色は…ヘーゼル色。

「じゃあ…!!」
「黄瀬さん」


目の前に、貴方がいてくれた。


 


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