♂だからどうか、覚えておいて(黄瀬)
※♂×♂ほんのり表現注意
おれは、本来なら。廃棄されるところだったのに。このままスクラップになってたのに。
『すいません!そいつ、いらないなら俺に譲ってくれないッスか?』
そのままなら、感情って文字だけの言葉の意味を知らずに済んだのに。
『はじめまして!俺の名前は黄瀬涼太!高校までモデルとバスケやってた!バスケなら、結構強いッスよ!』
貴方に拾われてからのおれは、どんどんメインコンピューターの制御が効かなくなって、ますます駄目なアンドロイドになってしまった。
『へえ、最近のパートナーアンドロイドは涙も流せるんスかぁ!』
流せるもんか。そんなのオイル漏れ。
『ねえ、名前ってある?』
前の人間に棄てられた瞬間、おれの名前は547-R。特にこれといった性能を持ってるわけでもない。顔の作りだけ、客受けするように整えられているだけ。それだけ。おれのスペックは、ない。
『んー、じゃあ男主名前ってどうッスか!?実はこの名前、初主演した俺のドラマの役名なんス!』
自分の名前。547-Rじゃなくて。男主名前、という新しい名前。
『これから、よろしく!!』
特別スペックがあるわけでもない。パートナーアンドロイドとしては旧型。この人は若いし、もっと新型を持つべきなのに。おれを、選んで置いてくれた。パートナー、として。
『な、なんスか!あんたら!!』
商品ナンバーのRとはRebirth(リバース)。再誕、再生、戻すという意味合い。生産量が一番多い機種であり、リサイクル率がトップ。安いなりに誤作動が多いアンドロイドとしても有名だ。高い性能を持つアンドロイドと違って安く購入出来るが、その多くがパートナー以下の存在として働くために契約されて、ボディに無理な負荷がかけられる為にメイン機能が回線をシャットダウンしたり、故障したりの不都合が多いから、リバースされるんだそうだ。おれのボディに焼き付くのはRの称号。あの時、あのままスクラップにされていたら、他の機種の再生と再誕に使われる部分部品となっていた。記憶のメインメモリを抜き取り、解体。
『待ってください!!そのアンドロイドは俺のパートナーでッ!こいつは、確かに契約した奴がいたかもしれないけど!棄てるって言うから俺が貰ったんスよ!』
『正式な契約がなされていない不誠実なアンドロイドを人間の側に置くことは条例で禁止されています。なにをするかわかったものではありません』
『それに、こちらのR型ならショップで安く手に入ります。なんなら私共の方で一台差し上げますよ。なのでこちらの547-Rを回収させて下さい』
『ふざけんな!俺が欲しいのはR型とかそんなんじゃない!俺が拾って俺が名付けて俺と過ごした…54…だかなんだか知らないッスけど!…俺は男主名前がいんだよ!!』
黄瀬、涼太。
『人のパートナーに勝手に触りやがって!お前らの方がなにするかわかったもんじゃないッスよ!』
おれのメインコンピューターは、契約されていなくても、とっくに…
『……とっくに、貴方をパートナーだと認識していました』
おれは、黄瀬涼太のパートナーでいられたことも黄瀬涼太の役名で名付けて貰ったことも、過ごした時間も。貴方は気付いてないかもだけれど。男主名前でいられた時のおれは、パートナーアンドロイドとしてではなく。まるで、1人の人間になった気でさえいたんだ。自分が正体がなにかなんてそんなの考えるまでもない。だけど、だけど。
『涙!?おい!早く回収するんだ!』
『っから、人のパートナーに勝手に触ってんじゃねえよ!!!』
『黄瀬さん!アンタわかってるのか!?自我を持ったアンドロイド程危険なものはない!命令に背くアンドロイドは、この世にあってはならない!』
おれは、どう足掻いてもアンドロイド。メインコンピューターに負荷がかかっていたのは、自我が芽生えたからか…そうか…。
『早く!強制終了機能を作動させろ!』
『男主名前!!早く逃げるッス!』
逃げた、ところで。
『壊してもかまわない!』
貴方がいないなら、意味はない。
『黄瀬さん』
『おれを拾ってくれて、ありがとう』
いっぱい、いっぱい、いっぱい。ありがとう。
『大好きでした』
バツリと、回線が切れる。次に目覚めた時、目の前に貴方がいてくれたなら…。