06 − その後の二人 (6/37)
「ふう! よーし、おーわりっ!」
 タンタンッと機嫌良く甲板に下りてくれば、ローがこちらを――何だか睨み付けられている。
 それが“ここへ来い”と云う意味だと分かったイユは、苦笑しつつもローの隣にストンと腰を下ろした。
「キャプテン、午前の作業終わりましたー!」
「あァ……ご苦労さん」
 ローはそう云うと、イユの太腿を枕にして横になり、目を閉じた。
 こんな風に甘えられるのはあまり無い為、イユは「珍しい」と僅かに目を丸くする。
「どうしたの、ロー……具合悪い?」
「あ? 何云ってんだ」
 どこも悪くねェ、とローは少しだけ目を開き、イユの顔をジッと見つめた。
「お前は着なくていい」
「ん?」
 話の飛び具合にイユは首を傾げつつ、潰れ気味になっているローの白い帽子を取ってやり、自分の頭に乗せると、深海色の少しクセのある髪を撫でる。
「あの服はお前には似合わねェし、肌が隠れるのは勿体無ェ」
「ああ、その話ね……そう……?」
 何だか納得のいく言葉ではなかったが、自分でも似合わないと思うし、やっぱりオシャレもしたい。
 と云うわけで、特に気にする事もなく、サワサワと髪を撫で続ける。撫でられて喜ぶ男ではないのだが、嫌でもなさそうで、そのままにさせてくれている。
「じゃあ、ウチのドクロを縫い付けた帽子でも被ろうかな」
「それは面倒だからやめとけ」
「面倒って? ローが?」
 意味が解らず、片眉を上げる。
 すると、ローがイユの頭にあった自分の帽子を取り、その下の柔らかな髪をぽんぽんと撫でた。
「いちいちコイツを取るのは面倒だ」
 だから要らねェ、とローはそう云って目を閉じる。
「……勝手ね」
 少し心臓がうるさくなってしまったイユは、ほんの反撃として、もはや十分に睡眠をとっても消える事が無さそうなローの隈を軽くつついてみる。が、本人は目を閉じたままで反応は無かった。
「疲れてるのかな……全く、医者の不養生なんだから」
 小さく寝息を立てるローの鼻をつまむイタズラを思いつきつつ、イユは肩をすくめた(やった瞬間、ブッタ斬られそうだ!)。
 そして青々と広がる空を仰ぎ、当たり前のように二人で居ると云うこの空気を、めいっぱい吸い込むのだった。



 シャチは最近、イユの一日の行動を観察していた。
 当直があれば掃除、洗濯、見張り、不寝番。無ければ鍛錬に付き合うか、ロープや帆の補強、食料調達の釣り。食堂でツナギの補修に、新聞で情報収集、コックの手伝いもしている。そして時々、甲板でローと話していたり、二人でベポを枕に昼寝をかましていたりするが。
「やっぱり変だ!!」
 深夜。男部屋のハンモックの上で悶々と考え込んでいたシャチが、突然叫んだ。
「……何がだ?」
 机で、新聞の「ハートの海賊団」関連の記事を切り抜いていたペンギンは、視線は手元のまま、叫び声に律儀に応えてやった。
 シャチはその反応を受け、ハンモックから床に下りて机へと駆け寄る。
 ハンモックは二段になっている為、ベポが寝ている下段のハンモックがゆらゆらと揺れたが、起きる様子は無い。
「イユと船長だよ! イユが晩飯食い終わって何してるか知ってるか?」
 その問いに、ペンギンは頭を垂れる。先日「おれを巻き込むな」と遠回しに云った筈なのだが――。
 しかし、あまりにもシャチが食いついているので、仕方なしに話を続けてやる。
「何云ってるんだ……そりゃ――」
「船長と居るだろうって思っただろ、けど船長室にはほとんど行ってねェって話だったよな? んで、船長は晩飯の後、あんまり顔出さないよな?」

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