05 − その後の二人 (5/37)
「――で、何か話でもあるのか?」
 クルーの部屋に連行されたペンギンは、持たされていたホウキを壁に立て掛けて訊ねる。
 シャチは水を張ったバケツを廊下に置き、部屋に入ると礼を云いつつ、ホウキを手に取った。
「さすがペンギ〜ン! ――で、何かさァ……おれ、妙に引っかかってる事があるんだよ」
「引っかかってる事?」
 シャチは軽く床を掃いていく。
「だって、イユと船長の会話を聞くに、イユはほとんど船長室に行ってねェって事だろ」
「……なんだ、今朝の事か」
 ペンギンは肩をすくめた。
「そうだな。だが、おれ達だって何か用が無い限り、船長室には行かないだろう?」
 さっぱりとペンギンはそう返したが、一方シャチはすっきりとせず「うーん」と唸る。
「まァそうなんだけどさァ……」
「今朝の事はおれ達が気にする事でもないだろう。二人で勝手にやってくれと、おれは思うがな」
 この船に初めてイユがやってきた時から、色々と気を揉み続けてきたペンギンとしては、そろそろ二人の問題から解放されたいと云う思いだった。平たく云えば「おれを巻き込むな」である。
「それに今は、新世界前で立て込んでいるからな……そんなに余裕もない」
 普段から目深に被っている帽子を更に引っ張り、ペンギンは溜め息を吐く。
 新世界を目前に、船はいまだ「ファースト・ハーフ」で航海を続けている。その考えをローはまだ明らかにはしないが、片付けておかねばならない事、根回ししなければならない事は山積みだ。
「そうだな……」
 シャチもそれは分かっているので観念したように頷けば、ペンギンはもう一度だけ肩をすくめ、部屋を出て行った。
「…………」
 しかし――納得は出来ていない。
「おれがスッキリしねェんだ、何かあるぞ絶対」
 ホウキを握り締め、シャチは謎の闘志を燃やすのだった。



 イユは、今朝は洗濯物の担当で、洗濯桶にぶち込まれた汚れたツナギを洗っていた。
「ずっと思ってたんだけど、私はツナギを着なくていいの?」
 ゴシゴシとツナギを板に擦りつけていて、ふと気付く。自分とローだけが好きな服を着ているのだ。
 質問は、同じく洗濯作業をしているクルーではなく、近くの甲板に座り、欄干に寄りかかって寛いでいるローに向けられていた。
「着たいのか?」
 作業を眺めているのが楽しいのか知らないが、イユが仕事を始めて、気付くとローがそこに座っていたのだ。
 最近はそれが日常的になっていて、こんな風にイユから話しかける事もあれば、全く会話をしない時もある。それでも二人の間に漂う空気は心地良かった。
「んー? 特に着たいわけじゃないんだけど……っふふ、自分で想像してみたら笑っちゃった。私には似合わなそう」
 泡のついた手で口許を隠して笑いながら、イユは隣に居たクルーのツナギを見る。
「でも“ハートの海賊団”のマークを持ってないのは少し寂しいかもね。私も仲間なのに」
 ツナギを着ているクルーはおろか、ローの服にも“笑うドクロ”がついている。自分だけそれを持たずに歩いていたら、周りから見たら仲間と思われないかもしれない。
「元賞金稼ぎの私だって、今は立派な“ハートの海賊団”の一員だもの」
 泡だらけのツナギをすすいで絞る。何とか汚れは落ちたようだ。
 イユは洗濯物用のロープが張ってあるデッキまで上がり、白さを取り戻したツナギを吊るして留める。そして、それらが風にそよぐのを眺めて満足げに微笑んだ。

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