04 − その後の二人 (4/37)
「そうでもしねェと、お前はおれの部屋に来ねェからだ」
「…………へっ……」
 そうだろう? と僅かに首を傾げてみせたローの笑みに、イユは思わず顔が熱くなるのを感じた。
 つまり部屋に来て欲しいから誘ったと云う事で、部屋に来て欲しいのは一緒に居たいから――。
「っう……! だ、だって……この部屋、誰のか分からない心臓とかあるしっ!」
 不気味なんだもの、と慌ててイユが口走ると、ローは背後にある木箱を肩越しに見る。そこには、“来るべき計画の為のある一手”として揃えている海賊共の心臓が詰められていた。
「何だ、分かるように名前を書いておきゃァいいのか?」
「――ああもう! そう云う問題じゃないんだってば!」
 ローの冗談に何かが極まってしまったイユは、勢い良くベッドを立ち上がって空のマグを手に取る。そして、壁に立て掛けられているローの刀――その隣に同じように佇んでいた自分の“春嵐”を掴んだ。
 他の三人は、二人のやり取りをハラハラしながら見守っている。
「……ちゃんと云ってくれれば来るのに」
 イユはローに一瞬だけ視線をやると、腰に得物を差し、部屋を横切る。
「こんな、人を騙すみたいな……ローのベッドは寝心地いいけど心臓に悪いの!!」
 そう云い放ったイユは、静かに部屋を出て行った。
「あっ、イユ、おれも朝飯食う! 待ってー!」
 ベポも続いて出て行く。多分気まずいなんて事を考えた行動ではなく、単純に腹が空いていたのだろう。
「……」
 船長室にはローとペンギン、シャチが残された。
 シャチはローの様子を盗み見てみる。特に表情を変えてはおらず、再びソファに寝転がってしまった。
(部屋に招く為に酒を飲ます、か――)
 シーンとした部屋で、シャチは一人考え込む。
(多分、それだけじゃねェよなァ、船長……)
 酒を飲んで潰れたイユの顔を一度だけ見た事がある。それを目にしたクルーも、ローすらも息を呑むほど色っぽいのだ。だから、ローはイユに酒を飲ますなとクルーに命じたのだ……自分が気に入ったモノのそんな姿なんて、他のヤロー共には見せたくないと云うのが男のサガだろう。
(きっと、イユのあの表情を見たいってのもあったんだろうなァ……)
 自分だけが見る事が出来る好いた女の表情――それを見て満足そうにしているローは想像に容易い。
(おれの勝手な推測だけどさ……。しかし、何だかスッキリしねェな、今朝の事件は)
 ウーン、と眉間に皺を寄せるシャチだったが、ペンギンがさり気なく「朝食の準備だ」と立ち上がったので、自分もソファを立った。
「…………」
 何かが引っ掛かる――ボサボサの頭を弄りながら、シャチはペンギンに続いて船長室を出るのであった。



 朝食を終え、掃除や洗濯など、クルーは分担された仕事へ向かう。
 イユは甲板に皆で座り込み、帆の補修に当たっていた。
 一方、シャチは各部屋の掃除だったが、食堂でローの遅い朝食に付き合っていたペンギンを見つけると、家具の配置で分からない事があるのだと、適当を云って呼び出した。

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