10 − その後の二人 (10/37)
(いや、待てよ……?)
 ローは今も若いが、もっと若い頃――10代、20歳になりたての頃などは、朝、ベッドで隣に女が居ないなんて事が無かった。望まなくても上玉は常に居たし、望めばかなりの上玉が軽く二、三人ベッドに転がり込んでくる羨ましい男だったのだ。
 そんなやんちゃをしていた彼が、まさか“ソーイウ行為に興味が無い”なんて思う日が来るのだろうか。イユをあんなに愛していて――周りにひしひし伝わる程で、それで「イユを抱こうと思わない」なんて云うのだろうか。
(いやいや、別にそれはそれで……オトコの在り方はそれぞれだし、船長はよく解らないところが多いじゃないか)
 けれど。
(そうだ……あの時――「ちゃんと云ってくれれば来るのに……」と云って船長室を出て行くイユの表情は……)
 何だか、寂しそうに見えたのだ。
(それは思い違いではない筈だ。それに……)
 ――「こうでもしねェとお前はおれの部屋に来ねェからだ」と意地悪そうに云ったローの表情もまた……。
「おい、ペンギン」
 その低い声に、ペンギンはハッと顔を上げた。
 予想通りに、シャチが見たら気絶しそうなくらいの不機嫌なローの睨みつけを受け、ペンギンは顔を強ばらせる。
「“この計画”は記さねェ。頭に叩き込めと云った筈だが、今おれの云った事を復唱出来るか」
 生半可な心持ちと計画性では、成功の前に実行すら出来ない危険な賭け。それは重々承知しているのだが。
「すみません……」
 ペンギンは視線を落とし、素直に謝った。
 しかし、ペンギンにとってもイユは大切な仲間だ。二人の事をどうしても考えてしまうのは仕方の無い事のように思える。
 帽子に表情を隠して俯くペンギンに、ローはチッと舌打ちをした。
「何を悶々としてるのか知った事じゃねェが、おれの船にボケッとしたヤツは要らねェぞ」
「…………」
 ――おいおい。
 思わずペンギンは帽子のツバの下からローを覗く。
 特に感情を含んだつもりはなかったが、その目にローは片眉を上げる。
「……何か云いてェ事があるようだな?」
 そりゃあ、こっちはアンタ達の事で悩んでるんで――
 ペンギンは肩をすくめた。
「……まあ」
 普段ならば、この歳下の船長に振り回されたり八つ当たりを受けたり、理不尽気味な苦言をぶつけられたりしたとしても、ペンギンは黙って従っていた。それは11年前に出逢って以来、彼の人間性に惚れ込んでいるからで、嫌ではなかったし、反抗などした事が無かった――のだが、この時ばかりは思わず頷いていた。
「へェ……? 何だ、云ってみろ」
 それに腹を立てるでもなく、ローは面白そうに口許を歪めた。
 それはまた恐ろしい顔なので、シャチが居たら再び悲鳴を上げるのではと思うものだったが、ペンギンは考え込み過ぎており、ローの余裕ぶった表情に何か一つ文句を云いたくなってしまっていた。
「イユと寝た事あります?」
 ゆえに、ポロッと口から出てしまった。
「……あ?」
 その唐突な質問に、ローは普通に首を傾げていた。
 それはそうだろう。彼らは何度も同じベッドで寝たりしているし、クルーは皆それを知っている。
 だから、ペンギンは息を吸い、質問をし直す。

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