09 − その後の二人 (9/37)
「……集めた心臓は海軍に届ける。100個もありゃァ七武海には――」
 腕を組んだローは、世間話をするような面持ちで、複雑かつ危険な計画を並べていく。
「…………」
 その計画は、2年ほど時を要するもの。それを何も見ず、頭の中での考えを話し続ける彼には恐れ入る。
 だが――と、ペンギンは海図に視線を落としているローの顔を覗き見てみた。
「お前らは船をここに……おれはパンクハザードへ――」
 当たり前だが、そこに居るのは“死の外科医”。冷たい笑みを浮かべ、人を斬り刻む、“残忍”と呼ばれたノースブルー出身の海賊だ。
(船長とイユって一緒に居る事の方が珍しくてさ……)
 シャチの言葉がよみがえり、目の前のローの隣にイユが居る風景を想像する。
(一緒の時は一緒で、それはそれは甘―い感じなんだが)
 イユが、ローが昼寝をする船に間違って乗り込んでしまってから、ひと悶着――いや、何十悶着もあり、それで互いに想いが通じ合った仲だ。時折、イユが勝手な行動をとってローの機嫌を損ねたり、ローが勝手な行動をとってイユが腹を立てたりと事件は勃発するものの、基本的にとても仲良くやっている。
 ベタベタイチャイチャとクルーの前ではあまりしないし、二人きりの時もそんな雰囲気ではない気もするが、ローがイユを大切にしているのは日々伝わるし、それは微笑ましい事だった。
(ロー、次の島は春島だって! すっごく楽しみ……って、主食に全く手をつけてないじゃない、どうしたの?)
(おれはパンは嫌いだ)
(え、そうだったの!? こんなフワフワで美味しいのに……しょうがないなあ、おにぎり作ってきてあげるから。ちょっと待ってて? ロー)
(……あァ……)
 だからこそ、おかしい。
(おれも“そう”思ってた……イユは船長と船長室に居るんだと思ってたよな?)
 航路をトントンと指していくローの“DEATH”と刺青を入れた指を追いながら、少し違和感を覚えた出来事を思い出す。
 あれは、もうひと月も前の事だろうか。
 “あの日”――イユが“世界最強の剣士”と生きる事より、ハートの海賊団の一員として生きると……そして、ローを選んだ日の事だ。早朝、イユが居なくなってしまったと甲板で皆が騒いでいた時にローが来て云ったのだ。
 ――「イユはおれのベッドで寝てるが……アイツがどうかしたか」と。
(そうだ。あの時、おれ達はてっきり既に“事後”だと思っていた……むしろ、その前にもう済んでた? いやいや、船長と云えどそんな事しないだろう。イユもガードが堅そうだし――)
 二人の事は二人でやってくれ、と云ったペンギンだったが、どうにも気になってしまう。そして、それはかなりどうでもいい事のような気がして、でも気になる。目の前でクールに船長をこなしているローに、全てを訊ねてしまいたくなる。
(いや、それは絶対に出来ない……おれも死にたくはないからな)
 一瞬にしてバラバラにされる事を想像し、血の気が引く。興味本位でこの疑問を投げかける事は、いつでも機嫌の悪い虎に首をさらけ出すようなものだ。
(今はこんな事考えている場合じゃない……計画に集中しろ、話を聞くんだ、ペンギン……!)
 そう、二人の問題は二人が解決する。更にこんなにデリケートな問題は当人同士に任せておくべきで、自分らがわざわざ茶々を入れる事は無いだろう。
(でも、もし“ソーイウ”事になっていないのだとしたら……)
 意を決した直後、ペンギンは眉間に皺を寄せ、腕を組んで考え始めた。
 自分も男だ。そんな相手が居るなら一も無く二も無く、ソーイウ行為に及んでもおかしくない。けれど、ローは違うのかもしれない。そんな行為を真っ先に望む男ではないのかもしれない。

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