19
メリー・クリスマス、私。
ハッピー・バースデー、十八歳の私。
目が覚めるとベッドの足元に山積みされた箱に目が止まった。ぱちくりと一瞬、思考は停止するがそれが私に来たサンタさんからのプレゼントだと気付く。
いつもより何処か慎重にベッドから降りる。素足から感じる冷たい床はいつもと変わらない。それでも何故か心臓は煩く鳴るし、いつもより循環が良くなったせいか、反対に寒過ぎて感覚がなくなったのか、寒さを感じなかった。
恐る恐るプレゼントの箱に触れる。それは夢のように覚めることも、消えることもなく、そこにあり続けた。そこで、ようやく私の顔に笑みが浮かぶ。
明らかに大き過ぎる箱が二つ。私はそれが誰と誰から来た物かメッセージカードなんて見なくても分かった。
ルシウスさんとダンブルドア校長だ。
黒いシックな箱に真っ白なレースのリボンの付いた方の大きな包みを慎重にとけば、肌触りのよさそうな黒い布が入っていた。その上に置かれたメッセージカードを拾う。これまた金粉らしき模様の付いた美しいカードだった。
パーティーに来てくれなくて残念だ。来年は、この黒いドレスを着て参加してくれるのを楽しみにしている。ルシウス・マルフォイ。
カードを大事に脇に置いて、黒いドレスを持ち上げた。想像以上の肌触りに高級品に違いないと思う。
「わぁ」
素敵なそれに、うずうずしだす。ドレスを胸に抱いたままベッドを見れば、まだ彼は寝ているようだ。
私は音をたてないように姿見の前まで行って、寝巻きを脱いだ。高鳴る鼓動を抑えて、ドレスに袖を通す。
「うわぁ」
ドレスは予想外に露出が激しかった。チューブトップになっており胸元から上が剥き出しだった。形は胸下で切り返しになっていて、程よく波立つスカートの丈は短く、心許ない。
鏡に映る自分にはお世辞にも似合わなかった。子どもが着ても色気も何もない。せっかくのドレスが勿体無い。
元の姿だったらなんて一瞬思ったけど、元の姿は元の姿で贅肉だるだるだったから、もっとみっともないことになっただろう。
「First name?」
寒いし脱いでしまおうと思った時、名前を呼ばれた。どうやら彼が起きたらしい。
「れ、レイ。あの、これは、ルシウスさんが、ちょっと着てみようかな、なんて思ったら想像以上に破滅的でして、もう脱ぐんで、その……」
何故か言い訳し始めた私の口は止まらず、近付いてきた彼から後ずさった。
「良い趣味をしている、あの人も」
「え?」
「First nameは白より黒が似合う」
「え、あ、ありがとう?」
「男が喜びそうだ」
「え?」
皮肉めいたレイの言葉にようやく顔を挙げて彼を見た。彼の金色の瞳が、いつもより輝いて見えた。それはギラギラとした野生的な。
「スネイプも喜ぶ」
「な、なにそれ」
恥ずかしさなんて吹っ飛んで怒りが湧き上がってきた。近いレイを押し離し、睨み上げる。
「何それ」
「First name」
「何それ……ッ、なんか、むかつく」
何がこんなにむかつくのか、何がこんなに悔しいのか、絡まる思考で泣きそうになってることだけは分かった。
「お前はスネイプが好きだろう?」
「何、それ!」
とうとう怒鳴ってしまった。最悪のクリスマスだ。否、最悪の誕生日、か。
「私がいつそんなこと言った!?」
「だが、事実だろう?」
「何それ!馬鹿!レイ馬鹿!」
「……」
「ほんと、何それ!こんなに一緒にいるのに、何でそんなこと言うの!?レイが、レイがセブルスさんに魔法を掛けられた時、あんなに、あんなに、私は、あの時、あなたを失ってしまったのかって……ッ」
思い出しただけで、胸が張り裂けそうになる。苦しい、苦しい苦しい。伝わらない想いが収まり切らなくて今にも破裂しそうだ。
「First name、誕生日おめでとう」
「あっ」
胸元を押さえて蹲った私に落ちてきた言葉と、冷んやりとした首元。
顔を挙げれば困ったように笑った彼と、胸元には彼の瞳と同じ色の泪のネックレス。
「レイ……ッ」
「すまない、一番に渡したかったんだ」
「う、うぅぅぅ。レイ!」
私は堪えきれず彼に抱き着いた。
「ありがとう」
ハッピー・バースデー、十八の私。
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