07
ようやくまともに発したのは自分の名前だった。
「First name・Family name」
ダンブルドアは頷き、ソファーへと促した。声を出したからだろうか、すっと今の状況に現実味が増す。
あれ、おかしいな。夢って声でたっけ?
今まで霧がかっていた視界が晴れていくように、頭がすっきしていく。そして……。
「いつまで私にしがみついているのですかな?」
「え、あ、ご、ごめんなさい」
黒い人の言葉が私を冷静にさせた。しがみついていたことに慌てて手を離したことが、何かがストンと落ち着いてしまった。
あれ、おかしいな。
「First name、座って儂とゆっくり話をどうじゃ?」
部屋を見渡せば映画のセットそのまま。さして広くない部屋の壁は蔵書でみっしり埋められていて、そこらへんには見たことない物がごちゃごちゃと積み上げられている。
不死鳥はいないようだ。
だけど、明らかに複数の視線を感じる。ここには私とアルバス・ダンブルドア、そして黒い人しかいないのに。
ハッとして顔を挙げる。
ぐるりと見渡すそこに額縁に収まった歴代校長たちの視線があった。
ごくりと息を呑む。罪人が公開処刑される時、こんな気分なのだろうか。
私の視線は一つの肖像画で止まる。あれは……。
「何を見ている」
肖像画の主、フィニアス・ナイジェラス・ブラックは興味なさげに言った。いや、見られているのが不快なのだろう。私なんかに見られて。
そして現実に引き戻される。私は慌ててダンブルドアと黒い人を見た。ダンブルドアは不思議そうに私を見つめ、黒い人は疑い深い視線を私に向けていた。
あれ、おかしいな。
夢なのに、この流れる冷や汗はなんだろう。
違和感を確かに抱いたまま私はそっとソファーに腰掛けた。
「フィニアスの知り合いかね?」
「馬鹿な、マグルの知り合いなどいてたまるか」
吐き捨てるように言ったフィニアス・ナイジェラス・ブラックは額縁から居なくなった。
「ほっほっほ、気にするでないぞ?First name。フィニアスは、ちと小難しいお方でな」
「……」
なんて答えれば良いのか全くもって分からないこの状況。誰も助けてはくれない。
「して、First name。君は誰じゃね?」
今度は名前を問われている訳じゃない。半月眼鏡の奥の粒らな瞳が、今は鋭く研ぎ澄まされている気がした。
「わ、私は、別に誰だとか大それたこと言えるような人間じゃなくて、ほんと、ただの、普通の、その辺にいる、高校生でして……」
あれ、おかしいな。
「その普通の高校生とやらが何故ホグワーツの敷地内にいる?」
黒い人が、すぐさま切り返してくる。
あれ?おかしいな。
「そ、それは、私にもわからなくて……」
「分からない?分からないで済む話をしているんじゃないのだが?」
「で、でも!本当に!」
あれ、おかしいな。
黒い人の目は相変わらず真っ暗だ。疑われてる。怪しまれてる。私は、私は……。
「だって、これ、夢でしょ?」
あぁ、ダンブルドア。どうしてそんな顔をするの?そんな哀れむような目を向けないで。どうせ、助けてなんかくれないのに。
あぁ、嘘だと言って。
私は黒い人を見る。冗談なんて大嫌いなこの人のことだ。この人なら本当のことを……。
「何をふざけたことを……」
「え」
「貴様、これでも夢だと言うか?」
「あ……ッ!」
ダンブルドアが制止する間もなく、素早く向けられた杖から出た光は私を包み込み、そして苦しみを与えた。まるで何かに握り締められてるようや圧迫感。息ができなくてヒュッと鳴った喉に、ようやく気付く。
あぁ、夢じゃないんだ。
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