08
あ、やばいと思った時にはもう目が合っていて、引き返すことはできなかった。
「お、おはよう。み、ミス・Family name」
「おはようございます。……クィレル教授」
一段と血色の悪いクィレルと朝から遭遇なんて、運のない。
「ず、随分早いですね?ミス・Family name」
「そうですか?」
確かに、私にしては早く起きた。その証拠にレイは傍にいない。きっとまだベッドの中で睡眠を貪っているのだろう。
それにしても久々に近くで見たターバン。時期も時期だし、自然とターバンに目がいってしまう。
くすんだターバン。帝王様は息苦しくないのだろうか。なんて見当違いなことを考えていたら視線に気付かれた。
「な、何かね?」
クィレルが、もそもそとターバンを弄る。私は慌てて視線を外した。
「い、いえ、何にも」
やばいやばいやばい、目を付けられたらたまったもんじゃない。否、既に遅しか?
「それじゃあ、クィレル教授ご機嫌よう」
頭を下げ、するりとクィレル教授の横を通り過ぎる。すれ違い様、もう一つの目に見られた気がして思わず振り返ったがターバンには何の変化も起きてはいなった。
「どうか無理をしないで」
無意識に零れた言葉は、哀れなクィレルにか、それとも……。
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