06
久しぶりの校長室は相変わらずごちゃごちゃしていた。ふと組み分け帽子が目に付いた。自然と寄る、眉間。
「やぁ、お嬢さん」
「何故、私をグリフィンドールに?」
「おや?何処か他の寮を所望されていたかな?」
「何故?」
くだらない談笑なんてするつもりはない。口裂け女みたいた口で一層笑みを深くした組み分け帽子からは悪意しか感じられなかった。
「くっくっくっ。……さぁ、お嬢さん!ベルベッドの幕は上がった!滑稽な喜劇の始まりだ!」
組み分け帽子がピエロみたいな演説を始めだす。その言葉は頭の中に直接叩き込まれる。
「君は、この滑稽な喜劇の大事な大事なピース!今更逃げだすなんて愚か!扉などない!道もない!あるのは正義のレールだけ!」
「……ッ」
「触れてはいけない!?何を言う!その傷から真っ赤な血を溢れ出してあげようじゃないか!隠すことなかれ!君が持つ屍の赤い杖が何よりの証拠!君はもう……」
逃げられない。
ドクッ。
心臓が強く鼓動した。どろっとした血液を吐き出すように、たった一回、強く、鼓動した。
「今夜は随分お喋りじゃのう、組み分け帽子よ」
ダンブルドアは心臓を鷲掴みするように胸元を握り締めながら背を丸める少女を見下ろし、長い白髭を撫でた。
「酷いことをする」
「ほぉ?其方にもそのような感情があったのか、フィニアス」
高い位置から落とされ言葉にダンブルドアは円な瞳を輝かせる。
「貴様のように、善を見せびらかす者よりかは、悪を隠さぬ私のが幾分ましだと思うが」
「何を言うのじゃ。儂は善見せびらかしてなどおらぬ。儂は……」
愛を無料配布しているのじゃよ。
「下衆が」
フィニアス・ナイジェラス・ブラックは悪態吐き、額から姿を消した。
「First name、大丈夫かね?」
「……はい」
何食わぬ顔で手を差し伸べる魔法使いを心の底から恐ろしく感じた。その細くて長い皺皺の指が真っ暗に見えた。
フィニアス・ナイジェラス・ブラックの言う通り、こんなピエロに比べれば、ヴォルデモートの方が可愛い気がある。
「どうやらフィニアス・ナイジェラス・ブラックは君に何やら思い入れがあるようじゃな」
「え?」
「心当たりはないかね?」
「全く」
「うむ、素直でよろしい。素直が一番じゃ」
一人納得しているダンブルドアは杖を一振りしティーカップを用意した。
「それで、何か儂に言いたいことはあるかね?」
何か言いたいのはそっちだろう。
目の前で浮いているティーカップに手を付けず、探るように半月眼鏡の奥を見つめる。が、何も映らない。
「減点するなら、幾らでも」
この世界の理なんて関係ないとでも言うかのように吐き捨て、私は校長室を後にした。
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