01
朝、大広間へと向かっていれば甘い香りが漂ってきた。それは日本人の私にも多少馴染みのあるもので、本場を体験できる嬉しさ半分、気付いてしまった面倒事への後悔半分、複雑な心境で一日が始まった。
あぁ、今日はハロウィンか。
「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」
教室内に木霊するのはこの物語で一、二を争う有名な呪文。隣のネビルも先ほどから苦戦苦闘しながら杖を振り回している。
ハーマイオニーと組まされ怒っているロンよりも、ハリーと組めなかったことで余ってしまったネビルと組むことになった私の方が不運な気がする。
「ネビル違うよ」
ハーマイオニーがフリットウィック先生に褒められている間もなお、杖を振り続けているネビルに小さく溜め息を零して注意した。
「杖の振り方はビューン、ヒョイでしょ?そんなに振り回したら危ない」
「う、うん。でもFirst name、君はさっきから一回もやってないけどできるの?」
疑わしげに私を見つめたネビルに自然と眉間が寄る。紙みたいなプライドを擽られ、私は杖腕の方のローブを少しだけ捲り上げて杖を真っ直ぐ羽に向けた。
「ウィン」
「あれ?うなの杖って変わった色してるね」
今まさに呪文を唱えようとした時、余計なちゃちゃを入れてきたネビルを横目で睨む。危うく舌打ちしそうになった。
「ご、ごめん」
「いいから、やるよ」
気を取り直して、再び羽と向きあう。
杖の色が変わってる?当たり前じゃない。屍の血が混ざっているんだから。
「ウィンガーディアム レヴィオーサ」
風が舞った。羽がまるで風に乗るかのように天井に向かって昇っていく。
あぁ、私もあの羽のように風に乗れたのだろうか。
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