09
目を開けた先に真っ先な飛び込んできたのはレイの憂気な顔。何だか嬉しくてまだ朦朧とした意識の中で頬を緩ませた。
「First name?大丈夫か?」
彼はいつも私の心配をしている気がする。させてる私が悪いのだけれど。心配されるのも悪くないなんて。
何だかレイの温もりが恋しくて、重たい腕をゆっくりと上げれば、それに気付いた彼が包み込むように手をとってくれた。絡み合う指先から安心が注ぎ込まれる。
「レイ」
彼の名を呼んだ声は消えてしまいそうなくらい掠れていた。それでも、ちゃんと拾ってくれた彼は絡めた手を自分の頬に添えながら「どうした?」と応えてくれる。
「何でもない。ただ、レイがいてくれて良かったって」
そう言えば何故か彼は一層哀しげに目を伏せた。そして添えるように絡めた私の指に口付ける。
「すまない。気付くのが遅くなって」
「ううん、名前を呼んでくれたでしょう?何度も、何度も。嬉しかった」
それでも自分を責めている彼の頬には一筋の泪が伝った。
あぁ、愛おしい。
恐怖でも歓喜でもなく、身の毛がよだつ。知らない感情に心臓がきゅっと締め付けられた。
レイは悔いていた。誰かに呼ばれた気がして誘われるように目を覚ませば、既に少女の意識ははんば飛んでいた。片手で耳を塞ぎ、苦しげに歪んだ表情。自分へと救いを求めて伸ばされたのだろう手は届いてはいなかった。
咄嗟にその手を掴み、彼女の名を呼ぶが彼女の唇が自分の名を刻むように動いた後、彼女は完全に意識を手離してしまった。
掴んだ手が異様なほど冷たかったからだろうか、それともぴくりともしない少女の顔が病的なほど白かったからだろうか、レイの心臓が焦燥を鳴らす。
「First name、First name、First name!」
失ったかと思った。
連れて行かれたくなくて、奪われたくなくて、自分の胸に閉じ込めるように掻き抱く。
「First name、どうして……ッ」
零れた言葉に返事が返ってくるはずもなく、レイはただただ冷たい少女の体を抱き締めることしかできないでいた。
そして、少女の心臓が儚く、それでも確かに鼓動を打ち続けていることに気づく。
「First name……」
すると冷静になったのか感覚が研ぎ澄まされ、少女が確かに呼吸をしていることにも気付いた。安堵したレイは、少女の伏せられた瞼にそっと唇を寄せた。
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