05
目を覚ましたら、見知らぬ世界にいた。トンネルの向こうは、不思議な町でした的な状況に思わず身震いした。
照りつける太陽は暖かくてこれっぽちも寒さなんて感じないはずなのに。私は、そのことを察してしまい凍り付きそうだった。
「嘘だ」
そびえ立つそれを私はゆっくりと見上げた。その先に見えた空は確かに青いのに目の前の景色が色褪せている気がしてならない。
あぁ、そうか。夢か。夢なら目の前にこんな古城が建っていたって不思議じゃない。眠る前にハリポタを読んでいたなら尚更だ。
あぁ、なんだ……。
「夢か」
零した声は風に乗って飛んでいった。
ほっとしたのも束の間、怒鳴るような声がした。芝生の上で腰をついていた私は、びくりと肩を竦ませ声のした方へと振り返る。
「え」
そこには私が見間違えるはずもないあの人がいた。
やっぱり夢だ。なんて幸せな夢を見ているんだろう。
どうか夢なら覚めないでとこの瞬間思っていた私は数分後、夢なら覚めてと切に願うのだった。
黒いその人は私のすぐ近くで足を止めると、その真っ暗な目で私を見下ろした。あまりにもその目が感情のない目で、怖ろしく無意識に腰を引いていた。
「あの……」
最初に口を開いたのは私の方だった。その目から逃げたい一心で、ない勇気を振り絞った。だが、すぐに間違えだったと気付く。地を這うような恐ろしく低い声が返ってきたせいで頭の中は真っ白になった。それも私とは明らかに違う言語であれば当然だろう。
何かを問われているようだったが、私は戸惑う一方でそれに答える術を持ってはいなかった。それが、黒い人を余計に苛立たせたようだ。
「いっ……!」
自分に向かって伸びて来た手が異様なほど黒いオーラを纏ってるように見えて、それから逃げようと手を引くも遅く、手首を容赦無く掴まれた。同時に走る痛み。反射的に声を漏らし目を瞑るが、何でとか思う前にそのまま引っ張り上げられ有無を言わせず立ち上がらせられた。
痛みの理由なんて考える暇もなかった。
ふと、ざわつく空気に周りを見渡せば城からいくつもの顔が私を見ていた。
あ、やっぱり。ここは……。
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