16
意識が戻り始めた時、温もりを感じたと思ったのだけれど、カーテンで仕切られた私が寝かせられているベッドには誰もいなかった。
「あら、やっとお目覚めなのね」
「マ、ごほっ、ごほっ、あー、マダム・ポンフリー」
この部屋の主の名を呼ぼうとしたら口の中から喉までびっくりするほど渇ききっていて、咳き込む。
「喉が渇いたでしょう?ゆっくり飲みなさい」
差し出されたゴブレットを一気に飲みたかったが、また咳き込むと思い、言われた通り一口、また一口とゆっくり飲み、時間を掛けて全部飲み干した。
「よろしい」
満足気に笑ったマダムにゴブレットを返しながら、おかわりを要求。
「一週間も寝込めば喉も渇きますでしょうよ」
「げ、一週間?」
「そうです、一週間です」
そんなに気を失ってたのか。
「あなたの鷹は優秀ですね」
「へ?」
急に何を言い出すのかと抱えていた頭を挙げれば、マダムがまたたっぷり入ったゴブレットをくれた。
「あなたの傍を片時も離れなかったのですよ」
「え」
マダムの視線の先を辿るように振り返れば窓辺にレイがいた。
「レイ」
「最初は餌を与えても何も食べなくてね、よく躾られているとは思ったんですよ。ためしにあなたへの見舞い品に混じっていたビスケットを与えたらよく食べましたよ」
あはは……レイは人間が食べれるものしか食べないからな。なんたって、ねぇ?
クスクス笑いを漏らしながら愛しい鷹に触れようと手を伸ばせば、勢いよくカーテンが開いた。手を伸ばした格好のまま振り向けば、なんとも陰気な空気の人物の登場だ。
「あー、お久しぶりです。セブルスさん」
「ミス・Family nameはロングボトムの起こす騒ぎに巻き込まれたいようですな」
「……、ははっ、そんな訳じゃないんすけどね」
第一声が壮絶なる嫌味。伸ばした手を引っ込め、向き直る。あぁ、顔をも酷いな。臭いものを見るような目だ。むしろ、視界にも入れたくないと思っているに違いない。
「貴様が、怪我をしようが、被害を浴びようが私には全く関係ない」
そりゃそうでしょうね。今更何を言っているのだと眉を顰める。あなたにそんなこと求めてない。
「だが、自分を犠牲にして得る善は所詮、偽善だ」
「……ッ!」
彼の突然の言い草に、カッと羞恥心が湧き上がる。そんなこと言われる筋合いはない。
「自惚れるな」
「……ッ」
悔しさに唇を噛み締める。
自惚れ?私がいつ自惚れたというの?私はただ何かできないかと……。
あぁ、そうか。自惚れていたじゃないか。
「貴様は誰も救ってなどいない」
私に誰かを救うことなんてできない。
「あぁ、むしろ被害を大きくし我々の仕事を増やしているだけですな」
「……ッ」
「以後、馬鹿げた勇者気取りの行動は控えるように」
勇者気取り?そうだ、私は何を勘違いしていたんだろう。私は私を特別だと思ってしまっていた。私が平凡だということを誰よりも私が知っていたはずなのに。
恥ずかしい。
私、いつから、考えてた?
私がここに来たのには何か意味があると。
ただの迷子なのに。
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