15
気が付けば、見渡す限り黒の世界にいた。暗いと表すには光のなさすぎるそこは、黒だ。不思議なことに自分の姿だけは確認できる。
ここ、どこ?
浮かんだ疑問と同時に恐怖が現れる。理由の分からない黒はヒトの恐怖心を煽る。
疑問、恐怖、焦り、不安、負の感情だけが私の思考を占めて狂気に呑まれそうになった時、明かりが点いたように視界が晴れた。
今度はどこ?
乱れる呼吸に胸元で動悸を抑えるように拳を握りながら、頭を働かす。
くすんだクリーム色の天井。
あぁ、ここは……。
懐かしく感じる天井。脱力感いっぱいの体を起こせば、やっぱりと確信する。
私の部屋だ。
あっちの、いやこっちの?どちらをどちらと示せば良いのか分からぬが、そこは私が十七年と数ヶ月の時間を刻んだ場所。
何故ここにいるんだろう?
疑問を思い浮かべた瞬間、答えが浮かんだ。
あぁ、やっぱり夢だったんだ。
ベッドから下りれば冷んやりとした床の感触。裸足のまま、ひたり、ひたりと姿見の前に立てば、ほら。
あぁ、懐かしい、私がいる。
十七歳の私がいた。
背がそれなりにあって、体はぽっちゃり、髪
は伸ばしはじめたばかりでまだ短くて、服の上からも胸だと分かるぐらいの膨らみがあって、全てが私だと物語っている。
あぁ、夢だったんだ。
何一つ変わらぬ姿。だって、あっちの世界にいた証なんて何一つない。何一つ。
笑うしかない。嗤うしかないだろう。
一番知ってるはずで、でも何故だか違和感ありまくりの鏡に映る自分が不自然に笑った。
さぁ、滑稽な夢に嗤おうじゃないか。
「……ッ」
今、まさに声を上げて笑おうとした時、違和感が生じた。
あれ、声が出ない?
急速に景色が色褪せる。色付いた世界がモノクロになると同時に崩れる落ちていく。
あぁ、なんだこっちが夢か。
あっち?こっち?それとも、そっち?
ねぇ、どれが現実だか本当に分かっているの?
今、何処かの誰かが現実だと思っているソレが、何処かの誰かの夢かもしれないのに。
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