10
ようやく退院許可がでた時、私の手には両腕でも抱えきれないほどのお菓子やら何やらの見舞品で溢れていた。
「ハーマイオニー、助かった。さんきゅー」
「いえ、それより元気になって良かったわ。おめでとう」
「えへへ」
「それにしても、First name。あなた一人部屋なの?」
「うん」
「へぇ」
興味深々のハーマイオニー。やばい、中に入らせてなんて言われたらたまったもんじゃない。私は慌ててもう一度お礼を告げて扉を閉めた。
「ごめんよ、ハーマイオニー。私、友達を部屋に上げない主義なの」
変な言いわけをしながら数日振りの自室を見渡す。なんだか、すごく久しぶりな気がした。そしてベッドで視線が止まる。何やらもっこりしているではないか。そう言えば、今日は退院だというのに姿を見てない。薄情な奴だ。
もっと言えば、まだ喧嘩してたんだ。怪我をしてそのまま医務室に軟禁状態だったから、鷹の姿のレイとうっかり仲良くしちゃったけど。
思い出しても、胸がずんと重くなって鼻の奥からツンとしたものが込み上げてくる。
う、何、泣きそうになってんだ。
「First name?今日、戻ってこれるんだったか?」
呑気に寝起きでぼさぼさの髪を掻き上げながら欠伸を噛み締めているレイ。この野郎。我が物顔で部屋で過ごしてるじゃないか。
「……First name?」
首なんか傾げたって可愛くないぞオジサン。
「どうした?」
「ど、どうしたもこうしたも!レイが!レイが!ハーマイオニーの肩に止まったからいけないんだからね!」
「は?」
ほんと、何処の子供だ。
自分でも自分が情けない。分かってる、分かってるけども、だって、あの瞬間、すごく怖かった。ぞわわわって、恐怖が駆け上がってきたんだ。
何のことだと頭を捻っていたレイは「あぁ」と、どうやら思い出したようだ。
「あぁって!」
腹が立つ。レイと私の温度差に腹が立つ。地団駄踏みながら、持っていた見舞の品を投げ散らかした。
もう、本当に子供だ。
「まさか、あんなに傷ついた顔をするとは思わなかった」
言われて途端に恥ずかしくなった。そう、傷付いた。あんなことで、あんな些細なことで、傷付いた。馬鹿みたいにショックを受けて、馬鹿みたいに騒いで、私、恥ずかしい。
膝から力が抜けて崩れるように顔を両手で覆った。
恥ずかしい、でも、傷付いたのは本当。本当に傷付いたんだよ?馬鹿みたいでしょ?
「馬鹿みたいでしょ?もう、十七歳なのに、子供みたいに泣いて、叫んで、馬鹿みたいにでしょ?」
嗤えば?
私は泣いているのを隠しもせず、自嘲するように鼻で嗤った。
「十七じゃ、まだ子供だ」
「子供扱いしないで!」
切り返すように素早く叫ぶ。睨む眼差しは嫌悪に近い。
「First name」
「そうやって優しく名前を呼ばないでよ……ッ」
おかしくなっちゃうから。
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