01
自分を抱き締めてくれるのは自分だけだった。でも今、この瞬間は違う。二つの心臓がリズムを奏で、温もりが混じり合い、慰め合う。
あぁ、私、今、独りじゃない。
浸っていれば、レイがぶち壊す言葉をぶっこんでくれた。この野郎。
「朝食の時間に遅れる」
「……」
「……どうした?」
「……別に」
一気に白けた私は、彼の首から腕を解き、目も合わせずにシーツから出る。開いたまんまのボタンを直しながら、向かうはシャワールーム。自然と唇がとんがっていた。つまりは、不服。
「First name?」
いいもん、いいもん、別にいいもん。そう思っても本音は真逆。不満不平が飛び交う。ドロドロのグチャグチャ。
あぁ、やっぱり分かってくれない。どうせ、分かってくれない。やっぱり、私は独りだ。独りだ。
反響するように脳内を占める『独り』。
洗面台の鏡に映る、醜い人間に反吐が出る。握り拳が震える。
不安、不満、怒り、哀しみ、嫉妬、後悔、恥ずかしい、悔しい。
ぐるぐる回る声に耳鳴りがする。
「見るな、見るな、見るな!」
鏡の中の知らない誰かに拳を向けた。
「First name!」
「はぁはぁはぁ、……ッ」
彼を睨む。何さ、どうせお前も私をあんな目で見るんだろ?どうせ、お前も、私を、……だろ?
「First name」
「うるさい!触らないで!気安く名前を呼ばないで」
「First name」
「来ないで!」
「First name」
「やめてよ!」
「First name」
「やめてってば!……ッ」
名前を紡ぎ、一歩一歩確実に近付いてくる彼に私は一歩一歩、遠ざかる。それが私と彼の距離なんだ。
だけど、彼はいとも簡単にそれを無にしてしまう。
「First name」
「ひっ、ど、どうして!ひっく、どうしてぇ!」
「First name」
「どうしてぇえええ!」
つい先日、孤独に疑問を持ち独り嘆いていた私を、今度は独りが独りを抱きしめる。
今、私を抱き締めてるのは知らない私の腕なんかじゃなくて、彼の安心に包まれた力強い腕だった。
「どうしてっ、どうしてっ、どうしてっ」
もう何に対して嘆いているのかさえ分からなくなった。ただ、情緒不安定すぎて嗤うしかない。
答えのでない疑問を空に向かって泣き叫んでいる独りの少女を見た。
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