11
「Family name・First name!」
私の名前が呼ばれた。でも、靄の中で呼ばれたような、何処か遠くの出来事みたいで上手く反応できない。
「Family name・First name!」
数回呼ばれ、だらだらと組み分け帽子に近付く。なんか体が重い。
あぁ、私、怖いんだ。
どくん、どくん、と心臓の鼓動が外で鳴っているかのように妙に近くに聴こえる。なのに、周りのざわめきも、マクゴナガル教授の声もよく聞こえない。
霧の檻に閉じ込められたようだ。
「やぁ、ようやく君の番か」
「……」
「実は楽しみにしていたんだよ」
「……」
「君の運命を決めることができるこの日を」
「……」
「さて、覗かせてもらうよ。……君が心の奥底に隠した、闇を……」
直接脳内に響くような声に頭が、ぐわんぐわんする。やめて欲しい。すごくやめて欲しい。気持ち悪い。気持ち悪いの。気持ち悪いよ。気持ち、悪いってば。
「……ッ」
あ、やだ。やめて、だめ、そこは、そこは……。
「見ないでぇええ!」
「グリフィンドール!!」
私の必死の訴えは帽子の高らかな声に掻き消され、続く歓声に誰も気付きはしなかった。そう、誰も……。すぐ隣に立っていたマクゴナガル教授と、何でも見透かす半月眼鏡のダンブルドア校長と、鋭い眼差しで私の様子を観察していたスネイプ教授以外は。
「な、に……?」
何が起きているのか分からなかった。歓声が上がっているのは紅をシンボルカラーにしたグリフィンドール。
「え……」
「さぁ、ミスFamily name。行きなさい」
私の頭から帽子を外し、促したマクゴナガル教授。私は彼女を見上げる。
「グリフィンドールですよ」
私の顔が「何処へ?」と問うていたのだろう。
「……はい」
海底のような真っ暗でどろどろした所に、真っ黒な蛇のような手が這うように侵入してきたような感覚。それは、とても大切な大切なナニかに触れて、呆気なく去っていった。
楽しみにしていた晩餐も、食欲が失せた。グリフィンドールになったのとか、どうでも良いぐらいに怠い。とにかく、部屋に戻って眠ってしまいたかった。
ただ、ドラコの視線だけは痛くて痛くて、顔を上げられなかった。
せっかく仲良くなれたのに、終わっちゃったよ、馬鹿。
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