10
天井を纏うのは偽物の星空。キラキラと瞬く星たちに思わず見惚れていれば、いつの間にやら流され流され、薄汚れた帽子が見える位置にいた。
おっ、おしゃべり帽子さんだ。
ダンブルドア校長の部屋で会ったことがあるため、あの組み分け帽子だとしても驚きはない。既に経験済みだ。今では随分おしゃべりな帽子だという認識だけ。
最初に会った時は、その不気味さにさすがに引いたけども。
「First name」
「あ、ドラコ」
ちびっ子どもでぎゅうぎゅうの中、掻き分けるようにやってきたのはドラコ。何やらそわそわと周りを見渡している。どうしたのだろう。
「ドラコ?」
「あー、First name、その……」
ドラコは控えめにそっと私の指先を握った。
白くて細い指から冷んやりとした温もりが伝わってくる。
「え」
「同じ寮だと、嬉しい……」
顔を背けて、ほんのり耳を赤く染めながら絞り出しすように、小さく小さく呟いた。
な、何だ何だ何だ何だ。こ、こいつは私をトキメキで殺す気か。
咄嗟に鼻を押さえながら顔を背けた。鼻血出てない、セーフ。
「わ、私も一緒だと、嬉しい」
顔を背けたまま、ぎゅうっと握り返した。何をやっているんだ。十歳の男の子に……。
情けないと思っても、胸の動悸はしばらくおさまる気配はなかった。
組み分け帽子の長い歌を聞き流ら思う。どこの寮でも構わないけど、歌の内容から察するに残念ながらグリフィンドールには入寮を拒否されそうだ。
勇気って、ないないない。純粋に正義なんて掲げていそうなグリフィンドールなんて畏れ多い。良いところでハッフルパフだろう。穏やかかつ適度に楽しめそうじゃないか。欲を言えばドラコと一緒が良いななんて。
「アボット・ハンナ!」
次々と聞いたことのあるようなないような名前が呼ばれる中、私の名は呼ばれない。アルファベット順だろうけど、私は例外かと。改めてトリップだなと思う。
「グレンジャー・ハーマイオニー!」
お、ハーマイオニーだ。緊張している顔も可愛い。可愛い、可愛い可愛い可愛い。危うくまた涎が出るとこだった。
「グリフィンドール!」
帽子が高らかに叫ぶ。
ネビル・ロングボトムもグリフィンドールに決まり、ドラコも原作通り帽子がドラコの頭に触れる前にスリザリンと叫んだ。
よしよし、良いペースじゃないか。
そして、ハリーの名が呼ばれた。一瞬静まり返ったそこは一気にざわめき立つ。さすが有名人。
ハリーもまた原作通りグリフィンドールに決まった。ホッとしたかのように、ふらふら歩くハリーを見て何だか馬鹿馬鹿しく思えた。
最初からハリーがグリフィンドールに入ることなんて決まっていたのに、何を心配することがあったんだ。
まぁ、そう思うのは私が原作を知っているからだけど。
他人のことは知っているのに自分のことは分からないなんて、なんて滑稽なんだろうか。
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