08
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。きっと何処かの誰かなトリップ女子ならばきっと喜ぶ状況なのだろうが、事無き主義で平々凡々な私にこの状況はちょっと……。
「へぇ、君って日本人なんだ」
「あ、うん」
目の前にはお菓子を頬張っている赤毛の少年、ロナルド・ウィーズリーことロン。
あーあ、口の周りにいっぱいカス付けちゃって、まぁ。
「日本人って僕初めて見た」
そして、隣には小さな顔に不似合いな丸い眼鏡を掛けたサラツヤ黒髪な少年が、我等が主人公のハリー・ポッター。
君、見たって失礼だな、おい。
どうして、こうなったかというと双子のウィーズリーと握手を交わした後、コンパートメントを探していると言えば「だったら僕たちに任せとけ」と揃えて言われ、嫌な予感はしたものの断れるはずなく付いて行った先にいたのはこの二人。運命だろうか。いやいやいや、こんな運命知らんがな。
マグル出身というか、別世界出身の私には物珍しいお菓子ばかりでハリーと頭を捻らせロンにご教授して頂くというのを繰り返していたら、不意にスパンと気持ち良いぐらいの音を立ててコンパートメントの戸が開いた。
その先に立っていたのは、なんと数少ない顔見知り。そして私の脳はフル回転を始める。
ドラコだ。ドラコがきた。やばす。これはあのシーンじゃないか!
内心興奮しつつもそれを堪えるように顔をサッと下げた。拳に力も入るというものだ。
「ほんとかい?このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話でもちきりなんだけど。それじゃ、君なのか?」
おっと、どうやら彼は私の存在に気付いていないらしい。都合が良いやら悪いやら。
原作通りに繰り広げられる現実にどこか客観的に事を見守っているとロンとハリーが勢い良く立ち上がった。
一層、目を輝かした私をハーマイオニーらへんが見ていたらきっと、臭いものを見るような視線を送るに違いない。だが、頬の筋肉が弛む弛む。
今にも乱闘が始まるって雰囲気にも関わらず、肉体労働は腰巾着に任せるということなのか呑気にお菓子に手を伸ばした彼と、はたと視線が交じ合った。
あ、見つかった。
「え、First name?」
「あは、やっほードラコ」
私たちが何とも言えない再会をしている時、ゴイルの悲鳴が狭いコンパートメントに響く。思わず、両手で耳を覆ったよ私は。
あぁ、スキャバーズに噛まれたんだ。可哀想に。
「First name、何でここにいるんだい?」
ゴイルの心配をする様子もなく、どうやら彼には私がここにいる方が一大事らしい。
「どこもコンパートメントが空いてなくて……」
「あぁ、そうだったのか。だったら僕が一緒に行っていれば良かったな」
肩を落とす彼の姿は心から悔やんでいるようで、その姿に一瞬きょとんとしたものの嬉しさが込み上げてくる。
あぁ、持つべきものは、友か……。
ゴイルがスキャバーズを喚きながら振り回している間、普通に会話している私達を唖然としてハリーとロンが見ていた。
「ドラコが悪いんじゃないよ、ありがとう」
ゴイルがスキャバーズを窓に叩き付けた時、我に返ったのか彼は私の腕を掴み立ち上がった。
「First name、今からでも遅くはない。僕たちのコンパートメントにおいでよ」
「え?あぁ……」
私はロンとハリーを見た。二人も私を見ている。私がどちらを選ぶか見定めているということだろう。
正直、どっちでも良い。どっちかを選んだらどっちかの敵になるんだろうか?
年下の男の子たちに奪い合いされるのは悪くないけど、そんなキャラじゃない。だって、それって逆ハーだろ?あっちにもこっちにも気使って疲れそうだ。
「ドラコ、ごめんね。お誘いはすごく嬉しいんだけど、今回はやめとく。本当にありがとう」
「……そうか」
案外あっさりとドラコは腕を離し、ロンとハリーを一瞥して出て行った。
二人は明らかにしょげて帰っていくドラコの背中を見て、にんまり笑っていた。
二人には悪いけど、ここに残ったのはドラコを選んだら二人の方が後が面倒臭そうで、ドラコの方が私のことを考えてくれそうだなと思ったから。案の定、そうなったって訳。
おもちゃの取り合いじゃないんだから、そんなに喜ばないでよ。
子供らしい子供の二人に内心鼻で笑いながら最後のカエルチョコレートに手を伸ばした。
あ、ダンブルドアじゃん。
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