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05

煉瓦でできた柱が、私にとっては絶壁に思えた。人生の壁とでもいうかのようにそびえ立つそれを、じっと睨む。刻一刻と出発の時間が迫っているのは百も承知なのだが、壁に向かって猪突猛進は恐いんだよ。恐いんだよ。

魔法学校からの手紙が届いたって、それは裏口入学だし、杖に選ばれたと言っても曰く付きのだし、何より、私が、私を知ってる。特別なんて言葉とは無縁なほど平凡な人間だということを。

嫌な思考の迷路に入ってしまったことを知り、私は逃げたそうとその原因である柱に背を向けようとしたところを誰かに肩を叩かれた。

気を張っていた私は大袈裟なほど反応して後ずさりながら振り返る。


「First name、どうかしましたかな?」

「あ、あぁ」


この人が救いの神に見えてしまうなんて、私ももう終わりだな。


「ルシウスさん……」


眩しい銀の髪を靡かせながら気品漂う笑みを浮かべたこの人は、あのルシウスだ。


「久しぶりだな」


ほっとしたのか、わかりやすく体から力が抜けよろめいた私を何の苦もなく支えるルシウス。

し、紳士だ。


「そ、そうですね」


実はルシウスさんと会うのはこれで二度目。以前、セブルスさんのところへ来ていたルシウスさんにばったり会ってしまったのだ。あの時のセブルスさんの顔といったら、まるで般若だったな。


「早くしないと乗り遅れるぞ」

「あ、そうなんですけど、ね……」


再び見上げる煉瓦の柱。


「なるほど」

「え?」


顎に手を当て何かを察したらしいルシウス。やばい、その姿も素敵だ。絵になるとはこの人のことか。


「さぁ、私の手を」

「へ?」

「ナルシッサ、先に行く」


え、ナルシッサ?

振り返る間もなく私はルシウスに連れられ、否、引き摺られ煉瓦の柱へと突っ込んだ。


「ひっ!」


咄嗟に目を瞑り、腕で顔を隠した。しかし、予想していた痛みは何一つこなくて……。


「目を開けてみなさい」


優しいそっと囁くようなルシウスの声に私は恐る恐るも腕をどけ、瞼を持ち上げた。


「あ」


真っ先に飛び込んできたのは紅色の蒸気機関車。そして、プラットホームには魔法使い、魔女、その卵たちでごった返していた。


「わぁ」


目をまん丸に見開いたまま隣に立つルシウスを見上げた。ルシウスは私の反応に満足そうに口元に弧を描いていた。

一見、悪そうにも思えるその笑顔に何故だか妙な安心感を抱いた。


「どうだ?」


俺の世界は凄いだろうとでも言うようなルシウスの言葉に何度も頷いた。

まるで、ようこそ魔法の世界へとナレーションが言ってるようだった。

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