14
零れた茶葉の香りが鼻について離れない。何だと言うのだ。あんな甘ったるい香りの紅茶なんぞ自分の好みではない。だが、あの香りを思い出すたびに、あの熱く情熱的な感情が溢れ出してくる。
「ちっ」
セブルス・スネイプは収まらない熱と苛立ちに困惑したのだった。
一方、部屋に戻ったFirst nameはベッドに伏せたままぴくりとも動かないでいた。箪笥の上にいる鷹はFirst nameから視線を外すことなく、じっと彼女を見つめている。
シーツを握り締める手は白く色褪せていた。微かに震える肩。泣いていたのかもしれない。
ようやく顔を挙げたのは月が天高く昇った頃。外は闇に包まれている。部屋は灯りもつけていない。しかし、月明かりがちょうど窓から差し込み、充分なほど明るく照らしていた。
「……はぁ」
情けなくも零れたのは、ただの息。感情的だった自分に恥ずかしさをようやく実感する。
鏡に映ったのは泣き腫らしたぐちゃぐちゃな顔した幼い自分。一ヶ月のもやもやした泣きたい気持ちが爆発したらしい。
「どうしよ……ッ、私、独りだ」
こんなに苦しいのに、こんなに辛いのに、こんなに怖いのに、なのに、私を抱き締めてくれるのは自分の幼い腕だけ。
「どうして!どうして!どうしてぇぇぇ!」
誰を恨めば良いの?誰を罵れば良いの?
誰に、この真っ黒な気持ちをぶつければ良いの?
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