09
身体中を張りめぐる血管が熱く沸騰したかのように、内側から湧き上がる熱に全身身の毛がよだった。
これが、私の杖なんだ。
【オリバンダーの店】
紀元前382年創業。見上げた看板の文字に感激する。なんていうことだ。これが、かの有名なオリバンダーさんの店。本当に紀元前って書いてある。
危うく噴き出しそうになるところだったが、彼に早く入れと背中を押され飲み込んだ。
「おぉ、これはこれはスネイプ教授。あなたが杖を買いに来た日のことを昨日のように覚えておるぞ。あなたの杖は……」
「今日は私ではなく、こいつの杖を買いに来た」
前に出されれば目をまん丸にしたオリバンダーさんが、顔を覗き込んできた。
「こ、こんにちは」
「スネイプ教授に娘さんがいたとは初耳ですな」
「え、ち、違います。私はセブルスさんの娘では……」
ちょっ、そんな嫌そうな顔しなくても良いじゃないか。
「さて、杖腕はどちらかな?」
「こっちです」
私は右手を前に出した。すると何処から出したのやらメジャーで腕やら背、肩幅などいたるところを測られた。
「ふむ、あー名前を聞いていなかったね」
「First name・Family nameです」
「お見かけするに、東洋系かな?」
「はい」
「そうかそうか、でしたらこれなんかどうだね?」
オリバンダーは店の奥の奥へと箱を取りにいった。その背中は何とも楽しそうだ。でも、ハリーみたいにあれもこれも合わないというのは勘弁してほしい。
隣の教授が我慢出来なくなると思うので。
「さぁさ、これです。これです。牡丹の油に鷹の尾羽。そして死者の上に根を張るという桜の木。さらに死者の血液と涙。これは二つとない珍しい杖ですぞ」
え、最後に何か変な単語が聞こえたんですけど。顔を強張らせながら彼を見上げれば彼は特に表情を帰ることなくその杖を見つめていた。
魔法界じゃ珍しくないことなのかな?
「幾つもの国を渡り私の元へと辿り着いた。残念ながら製作者が誰なのかは不明じゃ。ただ……」
「ただ?」
「この杖からは唯ならぬ運命が紡ぎ出されるじゃろう」
誇りの被った木箱の中には赤黒く光る、細い杖が治まっていた。怪しく光るその色は、まるで血に飢えているかのように見えた。
触れるのが恐ろしくなった。しかし、オリバンダーも彼も早く持てと威圧感を向けてくる。私は恐る恐る、その杖を握った。
「あ」
これ、私のだ。
舞い上がる赤い光に、私のじゃないなんて言えるはずがなかった。
一発で自分の杖を当てた。でも、この杖になるぐらいならもっと色んな杖に触れた方がましだったかもしれないと思った。
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