05
ぐわんぐわんする頭、込み上げてくる吐き気を両手で口を押さえ絶対吐かないという気合いで息を止める。
「ふん」
そんな瀕死状態の私をつまらぬものを見るような目で一瞥し、労わるという気持ちは持ち合わせてないらしくさっさと歩いて行く、彼の背中を追いかける。
ふらつく足を何とか前に出して前に出して前に出して……。
あれ、おかしいな?何故に追いつかない?
走っても走っても追いつかないその理由は、足の長さだった。外人さんの彼は足が長い。そして、さして長くもなかった私の足は若返りという特典で更に短くなっていた。
ちょっ、待ってよ!
流れる景色はきっとどれも珍しく目を奪われるものだったに違いない。でも、私にはそんな余裕はなかった。人混みの中、黒い彼の背中を見失わないようにするので精一杯だったんだ。
「何、休んでる?私に長時間ここで待たせる気か?」
ようやく追い付いた時はもう銀行の前で、息を整わぬまま銀行の中へと押し込まれた。
「ちょっ、セブ……」
鼻先でぴしゃりと閉められた扉に、もう言葉なんて何も出ない。出るのは乱れた息遣いだけ。
「も、なんで、よ」
走ったせいなのか興奮しているせいで、涙声になっている自分が本当に滑稽過ぎて、苛々が止まらない。
なんだよ、こんな世界嫌いだ。
「うぉおおおおお」
さっきまでの鬱々とした気分が一掃された。現金な奴だと罵ってくれてかまわない。だって、こんな金の山を見たら誰だって目を輝かせるでしょ?
袋に入るだけの金貨銀貨を詰め込んで、一生分以上の金の山が眠る金庫を後にした。
「お、お待たせしました」
「……」
何も言わずに彼は歩き始めた。次は何処に行くのだろうか。とにかく、置いていかれないように必死に足を動かす。
「ここで制服を作ってもらえ、私は行くところがある。フローリシュ・アンド・ブロッツ書店で教科書を買うところまで済ませておけ」
「え」
待ってと言う暇もなく彼の背中は人混みの中へと紛れてしまった。ぽつんと一人、取り残された私は無性に不安が襲った。
彼がいることが、どんなに心強かったのか思わされた。
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