04
装備、耳にいつものピアス。黒いシャツに黒い七分丈のスラックス。それに革靴を履き、ローブを羽織る。胸元には昨日ダンブルドアから頂いたグリンゴッツ銀行の鍵が鈍く光っていた。
「さて、準備は万端なのだがどうしたものやら」
睨めっこするのは衣装箪笥。外に出るには必然的にここを通らなければならない。でも、彼に会うのは気まずい。
あーあ、あんなこと言わなければ良かった。
「レイー、一緒にどうだい?」
うんともすんとも言わず、箪笥の上で眠っている。
知るか、ということらしい。
「冷たーい」
いつまでもこうしてはいられない。私は、どうにでもなれと投げやりな気持ちで箪笥を開けた。
「あれ?」
いつもあった背中がそこにはない。部屋を見渡しながら箪笥から出る。
「いないんだ」
なんだ、無駄に気を張ったじゃないか。
ほっと溜息を吐き部屋の隅にある暖炉へと向かった。
フルーパウダーで行けばあっという間だもん大丈夫大丈夫。
しかし、暖炉の周りにあるだろうと高を括っていたが、それらしい物は見当たらない。
あれ、ないのかな?
「うーん、どこだろ。……あ」
そこで大切なことにようやく気付いた。
あ、やばい。ホグワーツってフルーパウダー使えないんだっけ?
「私の部屋で何を探しているのですかな?」
「……ッ」
気配もなく掛けられた声に、びくりと肩を竦ませる。まるで親に悪事を見つかってしまった子供のような心境に、妙に心臓の鼓動が大きく聞こえた。
「セブルスさん」
「もう一度聞こう。ここで何をしてる?」
「あー、あのダイアゴン横丁へ行こうと」
「はっ、どうやって?」
鼻で笑った彼は馬鹿で浅はかな私の話しを聞いてやろうと腕を組み促す。
「ふ、フルーパウダーで行こうかと……」
「ほう、面白い。マグルがフルーパウダーを知っているとは」
「……」
彼は私が別世界から来たということを信じてないようだ。それに、あの話も。
「だが、残念だったな。ホグワーツの暖炉は煙突飛行ネットワークには繋がっていない。さて、どうする?」
意地悪だ。本当に意地悪だ。そんなの「連れてって下さい」としか言いようがなじゃないか。
頭を下げた私に満足したのか、彼はローブの裾を翻し「着いて来い」とただ一言告げて扉へと足早に歩いて行ってしまった。
その背中はやっぱり遠い。
[ 12/125 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]