02
「失礼しまーす」
そろりと覗くように向こうの箪笥の扉を開ければ、机に向かうちょっと猫背な黒い背中があった。
箪笥の向こうは別世界でした的な感じで、私の与えられた部屋の箪笥はなんと……。
「セブルスさん」
黒い人物、セブルス・スネイプの自室へと繋がっていたのだった。確かに、別世界だ。
セブルス・スネイプはちらりとこちらを見ただけですぐ机に向かってしまう。セブルス・スネイプと私の距離は初めて会った時のままだった。
見つめた背中が寂しい。
「すみません、通らせてもらいます」
背中に向かって頭を下げ、小走りで部屋を横切り扉へと向かった。
スネイプの部屋から逃げるようにそのままホグワーツの廊下を走る。
別に逃げてるわけじゃないけど、早く離れたいと思ってしまう。なんで、わざわざセブルス・スネイプの部屋に繋げたんだろう。
「あ!First name!こーんところで、なーにしてんだー?」
「ビーブス、ちょっと校長にお茶誘われて」
「ふーん、へー」
「なにさ」
煮え切らない感じの反応に足を止めて、ビーブスと向き合う。
「けけけ、学校が休みで良かったなー」
言った意味が分からず腕組みしながら、その意味を促す。
「そんな格好じゃ、怒られるぜー」
「あ」
にやにや笑いながらビーブスが飛んで行ってしまった後、自分の姿を見下ろす。
下着にシャツ一枚、素足に革靴。たしかに、露出狂一歩手前だ。子供になってから、どうも隠すことに執着心というか羞恥心がなくなってる。
セブルスさんも眉間に皺を寄せるぐらいなら教えてくれたって良いのに。
先ほど不快そうに眉を潜めたセブルス・スネイプに、お門違いな文句を零しながら、今度はとぼとぼと歩き校長室へと向かった。
「シュガーナッツ」
ガーゴイルの前で一言。シュガーナッツって、これまたマイナーじゃないか?
合言葉に開いた螺旋階段を登れば、趣きのある扉に辿り着く。
金の装飾でできたノックする輪っかを腕をいっぱいに伸ばし扉を鳴らした。
「おお、やっと出てきたか」
「あはは」
あなたが、寮が決まるまで箪笥が扉だなんて言ったからでしょうが。
「それで、過ごし慣れたかの?」
「あー、お察しの通り、あまり部屋から出ないもので」
ソファーに腰掛け、良い香りの立つ紅茶に口付けながら世間話がはじまった。こうやってダンブルドアとお茶をするのは三回目。週に一回程度にお招きされている。
ちらりと肖像画を見上げればフィニアス・ナイジェラス・ブラックと目が合う。すぐに逸らされてしまったけれど。
そんなに嫌そうな顔しなくたっいいじゃないか。
「あまり引き篭もっているのも良くないぞ、First name」
「あ、はい」
「そこでじゃ」
何やら良い笑顔のダンブルドアに思わず引き笑い。
この野郎、何を考えてやがる。
「入学準備をしにダイアゴン横丁へ買い物にでも行ってきたらどうじゃ?」
なんと!
思いがけない素敵な提案に目を輝かせる。渡されたホグワーツ入学許可証。これを幼い頃、どんなに待ちわびたか。きっと、私のところにもくると願っていた。
やっと、叶った。
嬉しくて、まさか現実になるとは思わなくて、本当に夢見たいで、胸が高鳴った。ドキドキが止まらない。
「付き添いはセブルスに頼んである」
「え」
スッと引っ込んだ胸の高鳴り。今度は違う意味で鼓動が速まる。
「ん?嫌だったかね?」
「あー、いえ、嫌じゃないですよ、私は。でも彼は……」
心の底から嫌そうな顔して私を見下ろすに違いない。
「心配することはない。心良く引き受けてくれたぞ」
嘘だ。その笑顔は絶対嘘だ。
きっと、職権乱用したに違いない。
さっそく明日にでも行ってきなさいと言われてしまい引くにももう引けない状況だと悟った私は、あんなに嬉しかった許可証を恨めしく見つめたまま校長室を後にした。
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