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15

ハリー・ポッターが目を覚ましたらしい。誰もがハリー達を英雄と化し、誰一人としてクィレルがいなくなったことに疑問を持たず肩を落とし涙を流さない。

そんな非情な空間に私は息が苦しくなった。まるで水の張った桶に顔を押し付けられてるかのように。


「こんにちは、ダンブルドア先生」


久し振りに来た校長室は居心地が悪くて仕方ない。フィニアス・ナイジェラス・ブラックは相変わらず厳しい目で私を見下している。だが、最初に会った時にあった冷たさが消えている気がするのは私の都合の良い気のせいだろうか。


「お呼びだと伺ったのですが、何のご用でしょうか?」

「よく来てくれたのう。君が彼を飛ばしてくれたおかげで逸早くハリーの元に駆けつけることができたのじゃ。礼を言おう。……ありがとう」

「そう、ですか」

「はて、何か儂に言いたいことがあるように見えるが?」


半月メガネの奥にある瞳がキラリと光った気がした。笑うピエロの仮面を付けてもダンブルドアの前では虚飾にしか過ぎないのか。


「クィレル教授は……」

「残念なことじゃ。また闇の魔術に対する防衛術の教師を探さなければならなくなったの」


ダンブルドアは唸って首を横に振った。が、悔いているのはそこ?


「何で、何で、誰もクィレル教授が死んだことを悲しまないのですか」


訴えるのは既に疑問ではなく湧き上がる黒い感情と底知れぬ悲しみ。


「何で……ッ」


今にも杖に伸びてしまいそうな手を抑える。


「人が、人が、一人死んでるのに!」


吐き出した感情と共に瞳から涙が溢れた。どうか偽善者だと嘲笑って罵って。


「あの人が今まで生きていたことは無になるんですか!?ちゃんと存在していたのに!顔を合わせて話をしていたのに!そんな、そんなの!」


可哀想。

耐えきれず私はその場に崩れ落ち両手で顔を覆った。


「憐れんでいるのかの?」

「……ッ」

「それこそが君の驕りだとは考えはしないのかね?」

「だって、だって……」


まるで、生きていた存在を否定されているようで。まるで、忘れられてしまったようで。


「だって、だって……」


自ら死を選んだ自分のことのようで。


「あ、え、何?」


脳裏に容赦なく叩き込まれる記憶にない記憶の映像。

何、何、何、何、これ?

それは絵にも描いたように清々しい青空の下。独りの少女が重力に抱き込まれるかのように空を飛んだ。空の下は赤黒い染みができていた。


「あ、れ?」


あぁ、私、死んだんだっけ?

まるで、私が私の死を忘れてしまったことが、私が世界から消えたことを誰も気付かず誰にも悲しまれていないことを目の前に差し出されたようで、鈍い痛みが襲う。


「人殺し」


気付いたら叫んでいた。


「それは自分のことを言っているのか」


ダンブルドアは悲しそうな目で私の手首を見下ろす。


「ハリーはヴォルデモートはおろかクィレルまで殺した!」


何故こんなにも息苦しいのだろう。

サヨナラさえ伝えられなかったことを、なぜ私はこんなにも悔やんでいるのだろう。始めから知っていたのにあの人が死ぬことなんて。

何故?何故、ダンブルドア。あなたはそんな憐れんだ目で私を見るんですか?

闇に嘆く私はそんなにも哀れで醜いですか?
自分の死さえも忘れてしまった私は……。

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