12
背中に感じる温もり。震える手に添えられた一回りも二回りも大きな骨張った手。首筋に掛かる吐息。どれもが彼だと思い知らされる。
「First name」
「……」
彼の名前を呼びたいのに口から出るのは言葉にもならない嗚咽。
「悪かった」
それは、何に対して謝っているの?
思って、恐ろしくて、私は彼の腕の中で身を捩り彼を見た。
「レイ……」
涙が止まってしまうぐらいの衝撃に息を呑んだ。泣きそうに歪む顔が美しくて、そんな顔をさせてしまったのが私だと知って。
「違うの」
違うの。違うのよ。どうして、腕を離すの?
その腕で私を閉じ込めてしまってよ。
「いかないで」
まるで迷子が母親に縋るように、私は必死に彼の腕を掴んだ。爪が彼の皮膚に傷跡を残せば、いっそこの腕をもいでしまえなんて悪魔が囁く。
「いかないで!いかないで!違うの、違うの!」
髪を振り乱して否定する。もう何が「違う」のさえ分からずに、彼がいってしまわなければそれで良いと、ただ、ただ、ただ、否定した。そして……。
「捨てないで!」
口から飛び出したそれは、心底に沈んだはずの想い。
あの時、私は誰に叫んだんだっけ。
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