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11

自室に戻れば、まだレイの姿はなかった。肌寒さを感じるもののレイが戻って来やすいようにと窓を全開にしたままシーツに潜る。


「レイ」


あぁ、早く戻ってきて。
もう、ハリーたちなんてどうでも良いから、私の傍にいてよ。

どろどろな感情が横切った時、こんなこと一年前の私なら思っていただろうかと思う。誰かの温もりがないと眠れなくなるなんて。

何も見たくなくて瞼を閉じれば自然と小さな息が漏れた。

自分が十八才だということを忘れてしまう。幼い彼らといると私まで幼くなってしまうのだろうか。それとも、私が成長できていなかっただけ?

この世界に来て一年。いつの間にか過ぎ去ってしまった月日を思い返せば何だかんだで向こうの世界よりも充実な生活を送っていたのかもしれない。

それが恐ろしい。今までの十八年間が無になってしまいそうで。自分が異物だということを忘れて、あの子たちと無邪気に戯れてしまいそうで。

それはいけないこと?
どこかの誰かが嘲笑する。

駄目よ。いけないことよ。忘れちゃ駄目。

自分を赦してはいけない。

自分の罪を忘れてはならない。

手首の傷を見なさい。

それが、あなたの、私の『罪』でしょ?


「First name?」


はっとして目を開ければ心配そうに眉を下げた彼がいた。

私は勢い良くシーツを剥ぎ、転びそうになりながら月明かりを背にした彼の胸に縋りついた。ひんやりと張り付いているシャツが背筋を寒くさせる。反対に彼の鼓動が暖かくて、もっともっともっと、彼に近づきたかった。


「どうした」

「あ、ごめん。レイ、おかえり」


我に返り、離れようとすれば後頭部に手を添えられ、手繰り寄せられる。暗にこうしていて良いということなのだろう。


「ただいま、First name」


おかえり、ただいま。そんな当たり前な会話が嬉しくて嬉しくて気持ち悪いぐらい頬が緩む。


「行かなかったのか」


どこか安堵した彼の声色に緩んでいた顔から表情が消えた。

違うの。行かなかったんじゃないの。


「行けなかったの」


所詮、私は異物。そこに居なくても良い存在。勝手に物語は進むんだから。

正義の道に進むには今回のラストに私は必要なかったってこと。
この世界は私の意志さえも、あっさり無にしてしまう。


「ダンブルドアは?」

「大丈夫だ」

「そう」


私が良かれと彼を飛ばしたのも所詮いらなっかったこと。だったら、温もりを感じながら眠っていたかった。と思って、先ほどの口づけを思い出した。思い出せば心も体も素直なもので、逸る鼓動に、込み上げる劣情。熱くなる体に、彼を押しやった。


「First name?」


熱い顔に、きっと真っ赤だと思った私は俯く。


「あ、その、今はちょっと……」


駄目という前に容赦なく彼は私の顎を掴むと強制的に顔を挙げさせた。


「くっ」


それで噴き出すってどうよ?
乙女の心を弄ぶ彼に苛っときた私は、シリアスな空気なんて閉め出して彼の馴れ馴れしく顎を掴む手を叩き落とした。


「……ッ、笑わないでよ」


零れた声は自分でも驚くほど涙混じりで、慌てて口元を両手で隠して彼に背を向けた。その時、彼が驚いて目を見開いていたのが少し見えた。


「First name、ごめん」

「……っ」


「別に」って言いたいのに、口を開けば嗚咽が漏れそうで、もうぼろぼろ落ちる涙なんて気にせずただひたすら息を止めた。

こんなことで泣いてる自分がやっぱり子供で、恥ずかしくて。

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