10
とぼとぼとグリフィンドールの談話室に戻れば太った婦人に「こんな時間に何してたの」とか「消灯時間はとっくに」とか面倒な説教を始められたけど、合い言葉をさっさと言って扉を開けさせた。
暖炉の炎が橙色に揺れる談話室にはもう誰もいなかった。さすがに皆眠りについたのだろう。ふとソファーの影に何かが見えた。誰かの忘れ物かななんて軽い気持ちでそこを覗けば、随分と大きな忘れ物があった。
「ね、ネビル?」
ぴたっと両手両足が体に張り付いた格好で寝ている、否、倒れているネビルがいた。
「あー、ハーマイオニーにやられちゃったかー」
ネビルの傍らにしゃがんで、杖で突っついてみる。あ、反応あり。って、そんなことしてる場合じゃない。魔法をといてあげなきゃ。
「えーっと、あれ?」
杖を構えたまま一時停止。
「反対呪文って何だ?」
いやいやいや、ネビルくん。目で訴えられても分からないよ。涙目になったって美少年じゃないから痛いだけだよ。萌えないよ、全く。
「えーい、やけくそだ!」
ネビルの顔が恐怖で引きつったように見えたのは気のせいだ。だって固まっているんだから。
「ピーリカピリララペーペルトー。魔法よ、解けろー!」
杖先から出た赤い光がネビルを包んだ。包んだけど、何の変化も起こらなかった。
「あはっ、ネビルごめんね。朝になれば誰かが助けてくれるさー」
私は「ごめんごめん」って後頭部を掻きながらネビルに背を向けた。
しょうがないよ。呪文知らないんだから。
ネビルに哀れみの視線を送り、私は自室に戻った。今頃ハリーはスネイプではなく、予期せぬ人物との対面に驚愕しているのだろうか。
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