09
その時、その瞬間、自分がいたい場所にいよう。どこも選べない時は彼の隣で静かに傍観しようじゃないか。そう活き込んで血に染まった杖を握り締めて部屋を後にした。までは良かったのだが、いったいこれはどういう状況なんだ。ちょっとそこの絵画、説明してくれ。
「………」
「……………」
「…………………」
廊下で佇むその背中は間抜けの一言に尽きる。かれこれ廊下を歩き回って一時間?二時間?誰一人遭遇しないこの状況。幽霊にさえお遭いしなかった。
何故だ。
トリップの王道的にはこの辺でクィレル先生に攫われるはずだったのに。あぁ、きっと、もう、絶対、ハリーは例のあの人に遭遇してしまっただろう。
「あ、First name」
「あ、ピーブス」
「ひっひっひ、消灯過ぎてるのにうろついてる悪い子がいるー!フィルチを呼ーぼう!」
「ちょっと今、おっさんの相手してる暇ないから」
「え、ちょ、待てーい!」
構ってちゃんをフルしかとして背をむければ、背後でがびーん的な無駄に良い反応しながら私に待ったをかけたピーブス。
「何?」
「いやいやいや、そこはやーめーてーって言うところだろい!」
「知らんがな」
「今日のFirst nameはつまらない」なんて勝手なことを言ってる小さいおっさんに放置プレイをかまそうとした時、思い出した。
「あ」
思い出したよ、私。確かピーブスって血みどろ男爵の振りしたハリーに会うんだ。
「ねぇ、ピーブス」
「お、何だ?」
「血みどろ男爵に会った?」
「おう、会った会った」
「ふーん」
じゃあ、やっぱりハリー達行っちゃったか。
「ピーブス。実は私、血みどろ男爵の命で動いてるんだ。だから邪魔したらピーブス怒られ……」
「ししし失礼しましたぁあああ!」
皆まで言う前にピーブスは無い足をフル回転させて消え去った。
血みどろパワーすげー。
「くっくっく、正義の道はそう簡単にお前さんを逃がしはせんよ」
黒いレースの女は至極満足そうに嗤った。
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