03
「もぉ、ドラコまじでお子様ー」
杖でぺしぺしと草を叩きながら文句を垂れて歩く私。ドラコのおふざけでお迎えに来たハグリッドの後を付いて行く。
「First name、ごめん」
「私に謝ってどうする。ネビルに謝んなさいよ」
「……」
「おい、こら」
まったく、ドラコちゃんは。
口を閉じてしまったドラコに溜め息を零して何故だか私が皆に謝罪した。私は君のママンか。
再度、組み分け。
今度はドラコとハリーと冒険することになった。さて、いよいよだ。
地面に残されている銀の血の滴りが濃くなっている。確実にあの人に近付いていることを表している。そして、樹齢何千年の樫の古木の枝が絡み合うその向こうに、開けた平地が見えた。
「見て」
ハリーに、そう言われる前からもう私は釘付けだった。純白に輝くそれに。
二人を背に私は馳せる気持ちを押し込め慎重に近付く。
「綺麗」
ユニコーンな亡骸は死してなお、美しさを保っていた。むしろ死というものが、さらに美しさを強めたように感じる。
触れたい。
その衝動に手を伸ばした時、ズルズルと滑る音がした。
来た。
私は身構える。杖は取らない。あの人にそれは無意味だから。
暗がりの中から頭をフードで深く覆ったあの人が現れた。
あの人は地面を這うようにユニコーンに近付き傍らに身を屈め貪るように傷口に口付けした。
「ぎゃあああああああ!」
あ、ドラコが逃げた。
そんなことを呑気に思いながらも視線はその残虐な光景から離すことができなかった。あの人は顔を挙げると、一番近くにいた私ではなくハリーを見た。
あなたも私を見てはくれないのか。
ユニコーンの血を顔から滴らせたあの人は私の横を通り過ぎハリーに向かって行った。
あの人が横を通り過ぎた瞬間、体全体が金縛りにあったように固まり、嘔吐感に襲われた。
そして、あの人は消えた。
「怪我はないかい?」
蹄の音なんて全く聞こえなかった。
「ケンタウルス」
ハリーと話しているケンタウルスを見つめる。あっという間に引き戻された現実に立ち尽くしていた。
「神話の中の生物だと思ってた」
そんなこと言ったら魔法だって物語の、人間の空想だと思っていたのだけれど。
「フィレンツェ、星は私のことも何か言ってた?」
フィレンツェは私の瞳を見るだけで何も言わない。言わないからこそ、余計に怖くなった。
「私は星にさえ見放されたのね」
仰げば満天の星空。
[ 108/125 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]