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各寮の点数を示す砂時計はグリフィンドール寮のところだけが極端に少なくなっていた。今やその犯人の話題でホグワーツは持ちきりだった。もちろん、私はその犯人を知っているし、だからと言ってどうこう言うわけでもない。こいつらみたいに。
こそこそ、ひそひそと周りからの視線が三人といる私にまで当たっているようで、煩わしいったらありゃしない。
隣で分厚い本に視線を落としてるハーマイオニーも、どうやら集中できてないようだ。朝、談話室で泣きそうな顔で駆け寄ってきた彼女の心境などお前たちに分かるはずもないのだろうよ。
「First name!ごめんなさい、私、私……」
「どうしたの?ハーマイオニー」
「あぁ、私ったら何て事をしてしまったの!」
穴があったら入りたいくらいの勢いで顔を隠す彼女に理由を聞けば、ドラゴン密輸をはじめから最後まで話してくれた。
私に謝る必要などないのに。でも、誰かに謝らずにはいられなかったのだろう。彼女はそういう子だ。
てな訳で男の子二人はどうでも良いが、充分に反省している彼女を追い詰める皆の態度が私を苛立たせていた。
先程から宿題が進まない進まない。羽ペンにインクを付けては、乾き、付けては、乾きの繰り返しだ。
そもそも、昨日までチヤホヤしてたくせに何も知らないくせに、何て調子の良いこと。確かに一晩で150点も減っているのだから驚くのも怒るのも分かる。だからって、こそこそひそひそじゃスリザリンと変わらないじゃないか。誇り高きグリフィンドール生が情けない。
「First name?さっきから進んでないけど、分からないところでもあった?」
「ううん、大丈夫。ありがとうハーマイオニー」
「いいのよ。分からないところあったら聞いてね」
ほら、聞いたか?彼女はこんなに良い子じゃないか。
あぁ、視線がうざいうざいうざい。
知らないんだ。否定した自分の目がどれだけ冷たく、人を追い込むのかを
知らないんだ。非難する自分の声がどんなに小さくても心の奥底まで届いてしまっていることを。
あぁ……。
「うざい」
私の声は、よく響いた。こそこそひそひそしていれば当たり前だ。普通の声で喋るだけでよく通るだろう。
こそこそひそひそは無くなり水を打ったように静まり返った。
実年齢十八歳の私が年下の子供にキレたのはどうか見逃してほしい。そもそも、こういうことに大人も子供もないだろう。
強気になれるのは相手が年下であるためだが。
ハーマイオニーの分厚い本をおもむろに彼女の手から取り、そのまま振りかぶることもなく机に叩き付た。
「First name!?」
目をまん丸にして驚くハーマイオニー。私は良い笑顔を向けて立ち上がり、言葉通り椅子を蹴った。
周りにいた人間はもちろん、同様に三人はポカーンと大口を開けて私を見上げていた。
「あはっ、うざいんだけど。言いたいことあるなら、こそこそひそひそ言ってないではっきり言えよ。言えないなら口を開くな。その口、針と糸で縫い付けてあげようか?」
皆の目の色が変わる。驚きの奥に見える怯えに鼻で笑いそうになった。
「何、その目は?あぁ、うぜーなー。いっそお前ら全員『アバダケダブラ』で目も口もない屍にしてあげましょうか?」
そう言って真っ赤な杖を持ち上げれば、呪文の意味を知っている人間は小さく悲鳴をあげた。
「あぁ、そっか。お前等みたいな馬鹿で下衆な奴に魔法なんて勿体ないか」
あっさりと杖を下ろした私に皆、一瞬の隙ができた。しかし、また身を縮めることとなる。蹴飛ばし倒れていた椅子を両手で持ち上げたのだから。
「ねぇ、これ以上私の癇に障ること言ったら、この手でその息の根止めてあげるよ」
椅子は壁に当たり、その衝撃で脚が折れた。衝撃音よりも、自分もそうなると思わされたのか子供たちは恐怖にわななく。
誰も口を開かなくなったことに満足し、三人を見下ろす。
「ハリー、ハーマイオニー、何か言われたりやられたら言ってね。いつでも仕返ししてあげるから」
何故だろう。とても満たされてる。
硝子の中に棲む私は妖艶に微笑んでいた。
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