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12

少年のように瞳を輝かせながら興奮するハグリッドは、それとは反対に慎重に卵を机の上に置いた。


「もうすぐ出てくるぞ」


卵には稲妻のように深い亀裂が入り、中で何かが蠢いている音が聞こえてくる。

この後ドラコに見られてしまい面倒なことになることを知っていながらも、私は興奮する気持ちを抑えられなかった。

あぁ、私は神秘の瞬間に立ちあえるのだ。

突如、キーッと黒板を爪で引っ掻くような音がしたと思えば卵の殻がぼろぼろと落ち始め、そこからひょっこりと蜥蜴のような顔が現れた。

ドラゴン、誕生だ。


「あは……」


知らず知らずに止めていた呼吸が、安堵したように吐き出される。同時に頬が緩んだ。

痩せて真っ黒な胴体に不釣り合いなほど巨大な骨ばっている翼。長い鼻にこぶのような角、そして焔のような橙色の瞳。

ほろり、一滴の涙が零れた。


「綺麗」

「そうだろう。美しいだろう?」


思わずハグリッドの言葉に激しく頷いてしまった。

だって、今まで生きてきて、こんなにも美しく神秘的で芸術的なものなど見たことがない。

ハグリッドがドラゴンを欲しいと言った言葉を今の私には否定などできない。


「この世界に、こんなにも穢れの無い美しい生き物が存在していたなんて……」


神が創られたもので唯一の成功ではないだろうか。

ハグリッドとハリー達がドラコに見られたと騒いでいる間も、私だけ別世界にいるかのようにドラゴンに魅入っていた。

映画やテレビ、本や絵画に描かれている龍は沢山見た。でも初めて見た命を持つ龍はこの世のどんな生き物よりも美しい生き物だった。

その日からハグリッドの小屋に足を運ぶ日々が続いた。ロンにはハグリッド同様、私も狂っていると言われてしまった。

そんなこと気にしない。気にするわけないじゃない。だって、こんなにも龍は美しいのだから。

だって、とうの昔に私は狂ってしまっているのだから。


狂気が暴れ出す。
ねぇ、気付いて。気付かないで。
手首に増えた傷を。
心の奥底にある癒えることのない傷を。

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