01
空で月が世界を見下ろし始めた頃、ハグリッドの小屋の前では子どもたちが集合していた。
「僕は森に行かない」
ドーラーコーくーん。
断固拒否の態勢に入ったドラコが可愛いとか思って微笑ましく見守っていれば、どうやらそういう状況ではないらしい。
「ホグワーツに残りたいなら行かねばならん」
駄々をこねるドラコに向かってハグリッドは厳しく言った。
「悪いことをしたんじゃから、その償いをせにゃならん」
不可抗力にせよ自分のことを棚に上げてよく言う。否、だからこそか。偽りの罪を被された哀れな大男。
「でも、森に行くのは召使いがすりことだよ。生徒にさせることじゃない。同じ文章を何百回も書き取りするとか、そういう罰だと思っていた。もし僕がこんなことをするってパパが知ったら、きっと……」
ルシウスさんは我が子をあの目で見下して鼻で笑うに違いない。
「きっと、これがホグワーツの流儀だってそう言い聞かせるだろうよ」
それはないな。ダンブルドアを貶めるチャンスだと思い、嬉々として乗り込んでくるに違いない。
「書き取りだって?へっ!それがなんの役に立つ?役に立つことをしろ、さもなきゃ退学しろ。おまえの父さんが、おまえが追い出された方がましだって言うんなら、さっさと城に戻って荷物をまとめろ!さぁ行け!」
「……」
ハグリッドの浴びせるような言葉にドラコは俯いて黙り込んだまま動かなかった。否、動くことができなかったんだろう。堅く握った拳が震えていた。
「ドラコ」
私は慌ててドラコの傍に寄り添った。そして安心させるように、そっとその手を包み込む。ドラコはハッとしたように顔を挙げて私を見た。
不安気なドラコに「大丈夫」と微笑んでハグリッドに視線を移す。
「ハグリッド、元を辿れば誰が悪いのか分かってますよね?」
「あ……う、それは……」
「これから、ただでさえ怖い森に行くんだから余り苛めないで。森に行きたくないと思うのは誰だって当たり前なんだから」
「あぁ……」
うなだれたハグリッドからドラコに向き直り、さらに笑顔を作る。内心、自分もドキドキなのはばれないように。
「ドラコ、大丈夫だよ。私がドラコの傍にいるから」
「……」
「ドラコに何かあったらルシウスさんに合わす顔がないもん」
わざとらしく肩をすくめればドラコは微かに笑った。
「さぁ、ハグリッド。何しょぼくれてんの?さっさと行こうーよ。夜の楽しい冒険へ!」
レイの「お前の所為だろ」って視線は、はいシカトー。
何が出てくるか分からない未知の森に向かってようやく出発となる。
[ 106/125 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]