09
一瞬、思考が止まった。
「First name!」
それはハーマイオニーだったのか、ロンだったのか、はたまたドラコだったのか。誰のものか分からない声が私を呼んだ時、思考が鮮明になる。
空を飛んでる?否、落ちているんだ。
「ひっ」
心は愛おしい鷹に助けを呼んでいるのに、風圧の所為か恐怖の所為か、声さえもでない。
観覧席は高く、なかなか衝撃をくれない。次第に冷静になりつつある頭が馬鹿げたことを考え始めた。
「よっと」
「大丈夫かい?First name」
がくんと体が引っ張られたと思えば左右に同じ顔。
「フレッド、ジョージ?」
「あぁ、王子と呼んでも良いぜ?」
「フレッド、そんなこと言ってる場合じゃないだろ?まぁ、僕のことも呼びたかったら王子で良いけどね」
双子が私の腕を掴んだらしい。でも、王子などと言うぐらいなら、もっと優雅にキャッチして欲しかった。ぶらぶらする足が、さっきと違う意味で怖かった。
結局、空中散歩状態で地面に着陸。何だか地上が懐かしかった。周りに集まってきた人たちに「大丈夫だよ」と答えていれば人垣を掻き分け、最後に双子を押しのけセブルス・スネイプが私の前に立ちはだかった。
「あ、あの……」
「何をしているのだね?」
「えっと、落ちました」
「ふざけてるのか?目立ちたかったのか?それとも、お得意の勇者気取りか?」
スネイプは何処からともなく杖を取り出し、真っ直ぐ私に突き付けた。
「……ッ」
いつもみたいに縋る相手のいない弱い私は、後退ることしかできなかった。
「スネイプ先生!待ってください!」
現れたのは、勇者ドラコ。私の前に立ち、スネイプの冷たい目を逸らすことなく受け止めている。
「何かね?」
「First nameは悪くないんです」
「では、誰が?」
「え、それは……」
あぁ、まぁ、そうなるよね。自分がいけないなんて間違っても言えないお坊ちゃまが言えるのは。
「あいつらです」
ドラコが指した先にいた不運な男の子、ロナルド・ウィーズリー。
「グリフィンドール、30点減点」
愕然としている男の子に心の底からの謝罪を。
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