04
混乱する思考の中でただ一つ、ぶれることなく想って求めていたのは彼、レイ。ただ一心に彼の温もりに触れたくて、乱れる息も、頬を伝う泪さえも拭うことはせず、走った。
ただ、運のないことに自寮の目前で黒い人物とぶつかってしまった。
「貴様、こんな時間に何をしている」
「あ……」
この人、セブルス・スネイプにとっては気が動転していようが、泣いていようが、明らかに様子が可笑しくても、そんなことは関係のないことだ。
きっと、私が正常に物事を考えられる状態だったら、自分の運のなさを恨んだだろう。
「ど、どいて……」
セブルス・スネイプなど視界にもいれず、濡れた目は真っ直ぐ彼の方へと向いている。それは、さらに男を不愉快にするということも知らずに。
「待て」
「ひっ、は、離して」
どうして?どうして?皆、私の邪魔をするの?私は、私はただ、レイにあいたいだけなのに。
「離して!どいて!邪魔をしないで!」
溢れ出す魔力。肩まで伸びた黒い髪が重力に逆らうように揺らめく。スネイプは眉を顰めた。暗がりで少女の毛先がだんだんと赤く染まっていくように見えた。
「落ち着け、何があった」
「お、落ち着け?面白いことを言うのね。あなたも冗談なんて言える男だったの」
「……ミス・Family name」
「どいて、どいて、邪魔をしないで。あいたいの、あわなきゃいけないの。レイにあわなきゃ、私、私、頭が可笑しくなりそう」
安心を頂戴。そんなに高級なものでも、珍しいものでも、特別なものでもないでしょ?
ただ、欲しいのは彼の温もりだけ。
「セブルス、彼女を離すでないぞ」
「校長?」
突如、闇の中から現れたダンブルドアにスネイプは目を見開くも、言われた通り少女の細い手首を掴んだ。折れてしまいそうな危うさに一層顔を歪める。
「さぁ、First name。鬼事は終わりじゃ。あの鏡に映らないということは、君が真に迷い子である証。悪く思うでない」
その頭の中にある情報を儂に渡すのじゃ。
「な、何を……」
「迷い子とは異世界から召喚された迷子。その者たちは過去未来を知りうる」
さぁ、儂にその知識を……。
形振りかまっていられないのだろうか。ダンブルドアの目は心の底から欲情しているようだった。その目はまるで蛇のようで、長い舌で絡め取られた視線を外すことができないでいた。
「あ、ぃゃ……」
拒絶の言葉に応えるように、視界が黒に染まった。闇の中で金色の光を見た気がした。
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