02
気怠い意識の中に感情もない声が降ってくる。
「おい、そろそろ起きろ」
「ん、も、少し……」
「ふざけるな」
瞼と瞼がまだ愛し合いたいと言っているのに、彼は冷たく遮断する。シーツの中で、そっと手を隣に這わせればそこに彼はいない。
あぁ、きっともう彼はシャワーも浴びて、身支度も整えて、彼を隠す仮面まで着けてしまっている。
それが切なくて寂しくて、目なんて開けたくなかった。もう分かっているから突き付けられる事実を見たくなどなかった。
「First name」
「……」
咎めるように私の名前を紡ぐ声に答えずにいれば、優しさの欠片もなく扉が閉まる音がした。
行ってしまった。
「……零」
ようやく目を開けた先には彼の姿も名残も何もなかった。あるのは虚し過ぎる身体の怠さと、無意識に流れる一筋の雫だけ。
ねぇ、知ってる?
本当は辛い苦しい寂しい助けてって泣き叫んでるのは私も同じなんだよ。
ねぇ、もう貴方にとって私は必要ないの?
ねぇ、もうあの時みたいに愛してはくれないの?
こんなの、こんなの、滑稽じゃないか。
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