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苛々して苛々して苛々して、泣くかと思った。
「First name、どうしたの?あんた不細工よ」
「……酷い、ルイくん」
「ほら、笑いなさい」
むにっと頬を摘ままれたが、むすっとした顔はなかなか崩れてくれない。
「ルイくん、いひゃいよ」
「あら、ごめんなさい」
パッと離された頬をさする。
「で、どうしたのよ」
どうしたもこうしたも……。
今日も今日とて我がクラスは、いつも通り平和に煩かった。
「何それー!!」
佐倉蜜柑の叫び声が響くまでは。
「……何事?」
「なんか、佐倉の家族が来てるんだってよ」
後ろの席の持ち上げくんに聞けば、持ち上げくんは頬杖付きなが顎で騒ぎの方を示した。そちらを見れば今にも飛び出して行きそうな佐倉蜜柑を友人らが止めていた。最終的には今井蛍の発明品?なザルに捕まっていた。
「……あほらし」
家族から手紙が来ない。そんなの当たり前。家族に会えない。それも当たり前。……家族に会いたい。それも当然。でも、それは、軽々しく言葉にしてはいけない言葉。
「届いてるわけねぇだろ」
棗くんの言葉に教室は静まり返った。
「あいつらがバカ正直に外との接触を許すかよ。特にお前みたいな悪目立ちのバカ。めでてーやつ、」
「何をいきなり!鳴海先生ちゃんと約束してくれたもん。ちゃんとじーちゃんに手紙とどけてくれるって」
「じゃあお前のじじいに現に手紙が届いてないのは何だよ」
「それは……」
「この際だから教えてやるよ、この先鳴海がお前の手紙をじじーに渡す日なんてこねーよ。学園にいる大人で信用できる奴がいると思ったら大間違いだ。特に俺やお前みたいな目をつけられた奴にとってはな」
その通りだ。その通りだけど、それはあまりにも残酷な現実だから。
「棗」
思わず口を挟んでいた。頬杖を付いたまま、呆れたように、でも真っ直ぐ棗の目を見て。
「……」
「その辺にしときなさい」
「……チッ」
舌打ちして出て行った背中に私は溜息を零した。
「……家族とか、あほらし」
「こらこら、腐らない腐らない」
ソファーの上で体育座りをして俯く私の頭をルイくんが撫でてくれる。
「だって、ルイくん。私、学園じゃ古株だけどこれまで家族が助けてくれたのなんて見たことないよ。結局、金で子供を売ったんだ。そんな親……死ねばいい」
「……First name」
そもそも、家族がいるだけで充分じゃないか。私なんて、私なんて……。
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