11
「あ、ごめんなさい」
初めての拒絶だった。瞠目した彼の顔が次の瞬間怒りに歪んだ。
「ほう、貴様も所詮は奴等と同じか」
「え、違……きゃっ!」
ベッドに縫い付けられるように閉じ込められた私は抗うことなどできない。脳裏に鳴海とのことが鮮明に思い起こされる。相手は愛おしい相手だというのに。
「零?」
「気安く私の名前を呼ぶな!」
「あ……」
割くように開かれたワイシャツ。ツーっと目から何かが零れ落ちた。
「何だ、これは?」
「……ッ、いたっ」
零の長い爪が鎖骨の下ら辺に刺さる。
あぁ、そうだ。まだ消えていなかったんだ。
「成る程、男が出来たのか。だから私は用無しだと?」
彼の纏う空気の所為だろうか、それとも彼の指が私の喉に触れているからだろうか。声が出ない変わりに小さく首を振ってみても彼の目にはその薄くなりかけた赤い華しか映ってはいないようだ。
「くっくっくっ、あはははは!」
喉の奥を低く鳴らした後、彼は狂ったように嗤い声を上げた。
「……死ね」
彼の両手が私の首を締める。
いつも願っていたことなのに、何故だか泪が出た。
きっと、一緒には逝けないから。
きっと、心が寄り添ってないから。
きっと、そこに狂おしいほどの愛なんてないから。
きっと、私だけ逝ってしまうから。
「……れ、い」
「喋るな」
「れ……」
「喋るな」
「い……」
「喋るな!」
「あ、い、し……て……」
あぁ、泣かないで。そんな哀しい顔をしないで。笑って。あなたの顔は美しいのに。ねぇ、お願い。最期ぐらい名前を呼んで。愛してるって嘘でも良いからちょうだい。
ねぇ、私……。
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