10
いつの間に付けたんだ、あいつ。
鏡に映るのは真っ赤な目をした私。そして鎖骨の上に赤い跡。キスマークなんて付けられたことなかったのに、初めて付けられたのが彼じゃなくて鳴海だなんて。
「……寝よ」
私はとうとう遅刻魔から登校拒否児へと昇格した。
引きこもり生活を続けて早一週間。食事は皆が授業の間にこっそり食堂へと行っていた。おばちゃんは何も言わなかった。ほんと子どもの気持ちがわかるおばちゃんだ。
「Family nameさん?」
控えめになった扉。この声は委員長だ。きっと心配して様子を見にきてくれたのだろう。でも、きっと今の私を見たら余計心配させてしまう気がして、扉を開けることはしなかった。
「何?委員長」
「あ、Family nameさん。良かった返事してくれて。体調大丈夫?」
いつもと変わらぬ台詞。委員長は本気で私をか弱い子だと思っているのだろうか。それとも鳴海が何か言ったのか。
「大丈夫だよ。ただのサボりだから」
ベッドから出て、ひたひたと床を歩く。素足だから直に床の冷たさが伝わってくる。
「そうなの?でも、Family nameさん遅刻する時とかいつも辛そうな顔してるから」
「え」
そんな顔してた?私、そんなにバレてしまうぐらい顔に出してた?
「みんなも心配してるよ?」
そっと扉に手を当てれば、なんだか委員長の温かさが伝わってきてる気がした。
「あはは、嘘」
「嘘じゃないよ!心読みくんもつまらなそうにしてるよ。きっと隣の席が空いちゃってるからだよ。あの棗くんだって心配してるんだ。今日、ナル先生に『Family nameはどうした』って詰め寄ってたし!」
「そっか、心読みくんが、棗くんが……」
何だか二人の顔が想像できて思わず笑みが零れた。
人に心配されるなんて慣れてないから、なんだかくすぐったいや。
「Family nameさん」
「委員長、ありがとう。大丈夫、明日は行くよ」
「え、本当?」
「うん」
「そっか……そっか!待ってるね!」
軽い足音が離れていく音を聞こえなくなるまで、その場で聞いていた。
「あーあ、一番心配して欲しい人はきっと何とも思ってないんだろうな」
自嘲めいた言葉など誰も聞いてはくれない。大きな独り言が静かに響いたのだった。
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