05
ざわざわする教室。いつもと変わらない耳障りの声。でも、何かが違った。
「誘拐とか言ってたよねー」
「テレビではね。でも本当は違うらしいじゃん」
「あ、知ってる。本当は男と駆け落ちしたんでしょー」
「何それ、私が聞いたのと違うしー。あの子、出会い系に嵌っちゃってー」
「えー、援交っしょ?」
「キャハハッ、大人しい顔してやるぅ!」
「てか、よくあんなブスとヤれるよねー」
「言えてるー!てか、相手もデブなオヤジなんじゃね!?」
「うわっ!きしょいっ!」
「てか、あの子の名前なんだっけ?」
「えっとねー……やばっ!分かんない」
「ひどっ!てか私も知らねー」
そこで私も気付く。ナナちゃんの名字、私も知らないや。
「あ、でもねー」
黄色い声から急に潜めた声に皆が注目する。
「本当の本当は、自殺しちゃったらしいよ」
私は、その言葉を最後に教室を後にした。
なんだか一番現実味のある言葉だったなと思いながら音楽プレーヤーの再生ボタンを押して、また世界を遮断した。
誰にも名前を覚えてもらえていない、ナナちゃん。
でも確かにあの教室にいた、ナナちゃん。
ナナちゃんを何処かに置き去りにしたまま時間は進む。
私は羨ましく思った。
あぁ、ナナちゃんはこのくだらない世界から解放されたんだ。[ 5/350 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]