04
奇跡的に一命を取り留めた。面会許可が出て真っ先に入ってきたのはマルコでもエースでもトリオでもなくてナナちゃんだった。クロコダイルさんは、もはや別枠であるが。
「やっほ」
「ナナちゃん」
「あ、なんだ元気そうじゃん」
ベッドの傍に置かれた丸椅子に腰掛けるナナちゃん。
「これのどこが?」
First nameは腕を無くした。赤犬が貫いたのは右肩。そこから先は燃え尽きて消えた。
「なんか歴戦の女戦士みたいでかっこいいじゃん」
「そんな路線目指してません」
「てか、クロコダイルさんとお揃い?」
「あの人は手首から先でしょ、私は肩から。えぐい。てか、赤犬激怖」
「あっははははは!そんなこと言えるなら大丈夫そうだね」
ナナは今座ったばかりだというのに、もう立ち上がった。きっとお別れを言いに来たのだろう。
「やっと始まるね」
窓の外の空と海の青を見つめながらナナは穏やかに告げた。何が、とは聞かなかった。それは分かりきったこと。
「ありがとう、First nameちゃん」
「お礼を言われるようなことなんてしてないけど」
「それでも、ありがとう」
あのページを破り捨ててくれて。
「あ、そういえばナナちゃんが助けてくれたんでしょ?」
「え?あ、あぁ、それこそそんな大したことしてないよ」
「ドクターが手術中に乗り込んできたって。何したの?」
「んー、それはー、企業秘密ってことで」
ニヤリと笑ったナナちゃんは瞬きをしたあと、真っ直ぐ私の目を見据えた。もう、そこにはあの頃のように平凡を嘆き非凡を求めるような灰色の眼はない。
「First nameちゃん、またね」
「うん、ナナちゃん。また」
迷い子たちの道はまた、別れた。[ 346/350 ][*prev] [next#]
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