01
「いかないで!」
自分の叫ぶ声で目が覚めた。滲む視界、その先に見えたのは手だ。誰の手だ。
あぁ、私の手だ。
「First name!目が覚めたか!?」
カーテンを勢い良く引いてベッドサイドに近付いた男はドクターだ。何度も覚えのある状況。ただ、First nameは小刻みに震える指先から視線を離すことができなかった。
その先には何もない。何もないんだ。
「First name!しっかりしろ!First name!」
「あ、ぅあ、あっ、ドク、タァ」
自分の声がやけに篭って聞こえる。顔に纏わり付くような息苦しさを感じるものの、今はそんなこと気にも止められなかった。
First nameは酸素マスクを付けられ、胸には心臓の波形を表すモニター、腕には点滴、他にも用途不明な管が繋がれていた。
「あ、あたし、ヒトを、コロした」
「First name?」
「ヒトを、人を!何よりも大切で!私が一番護らなきゃいけなかった!ごほっ、ごほっ!命を!……ッ、う」
「First name、お前……」
ドクターは目にも当てられなかった。この少女は、否、この女はもうきっと、確実に、自分の子が、自分の中にいないことを知っているんだ。[ 343/350 ][*prev] [next#]
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