11
「裂け、風花」
血飛沫が頬を赤く染める。握ったナイフはこれまでになく血を吸っただろう。赤黒くなったそれに、こいつとの旅もここまでかななんて感傷に浸る、間も無くまた人を斬った。
もう少し、もう少し、もう少しで手が届く。
「First name殿!危ない」
跳ねる兎少年に背を掴まれ後退すれば、鼻先で地面から壁がせり上がってくる。
あぁ、また遠くなった。
「大丈夫ですかい?」
「うん、ありがとう」
壁から砲口が現れる。
「風盾」
兎少年を背に庇い、風の盾を張る。これでは格好の餌食である。これ以上はまだ進めない。もう一歩だというのに。First nameは唇を噛んだ。
「First name!気を付けろ」
イエローに頭をぐっと押さえられれば視界の端で頭上をマグマの拳が降り注ぐのを捉えた。
「グリーン!レッド!こっち!」
風盾の範囲を広げなんとか防御につくす。あんなもの当たってしまえばひとたまりもない。
「モビーが」
絶句したように零したグリーンの言葉に皆は家へ向く。
「そんな」
燃えるのは見間違うことなく我が家であるモビー・ディック号。ポロリとまた涙が落ちた。
「そろそろ親父が切り札を出してくるだろう。First name、ちゃんと前向いてねぇと一瞬のチャンスを逃すぞ」
「うん!」
レッドに言われ乱暴に目を拭った。
壁の向こうで何が起こっているか分からない。それでもきっと麦わらのルフィがこの壁を越え、そして彼もまた……。
風になって飛んでしまえばこの程度の壁あっという間に飛び越えてしまえるのに、今、それができないのは、私には彼らみたいな勇気も度胸も信念も持ち合わさせていないから。
「くるぞ!」
イエローが叫んだ時、湾内より現れたのは黒いモビー。襲い来る波に力が抜ける。が、我らが友三人は私を離しはしなかった。
「ごほっ!ごほっ!」
「First nameちゃん!」
「ぐ、大丈夫、大丈夫」
広場へ降り立った。また一歩エースに近づいた。たった一歩、そこまでの距離はまだ果てしない時のように遠い。
「エース!」
今、助けるから。
鈍く痛む腹にお願い許してと目を閉じて。[ 335/350 ][*prev] [next#]
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