04
「トリオ、First nameのそばから離れるんじゃねぇよい」
マルコの言葉に三人は当たり前だと頷く。きっともう皆分かっているのだろう。何を言っても私はその風に乗って飛んで行ってしまうということに。だから、せめて、見失わないように、私が真っ直ぐ戻って来れるように。
見渡す戦場はまさに混沌。ずらりと迎えてくれたのは正義を背負う海軍。見覚えのある初めましてな人物たちに高鳴る筈だった胸は、ずんと鉛のような重さだけがのしか掛かる。
白ひげの悪魔の実の能力で揺れるモビーに傾く体を三人が支えてくれた。
「おっとっとっ」
「おいおい、親父の力で海に落ちるとかやめろよ?」
「レッド酷い、てか飛ぶし」
「あぁ、そうか」
軽口を叩くレッドを睨み上げればレッドの視線は前を向いていた。その視線の先を追うように私も前を向く。皆が同じ方向を見ていた。
「おれは、みんなの忠告を無視して飛び出したのに、何で見捨ててくれなかったんだよ!おれの身勝手でこうなっちまったのに!」
馬鹿なことを言う弟だ。
「いや、おれは行けと言ったはずだぜ。息子よ」
「……うそつけ!馬鹿言ってんじゃねぇよ!あんたがあの時止めたのに、俺は!」
「俺は行けと言った。そうだろ、マルコ」
「あぁ、俺も聞いてたよい!とんだ苦労かけちまったな、エース!この海じゃ誰でも知ってる筈だ」
そうだ、誰だって知ってる。
ぞわりと身の毛がよだつと共に唇が緩んだ。
「俺たちの仲間に手を出せば一体どうなるかって事ぐらいなぁ!」
「お前を傷付けた奴ぁ、誰一人生かしちゃおかねぇぞ、エース!」
「待ってろ!今助けるぞ!」
沸き上がる声、声、声。まるでコロッセオの観衆席にいるかのようの感覚だ。
「おい、First name。震えてるぜ?」
「イエロー、これは武者震いってやつだよ」
だって、私は今この瞬間を紙の上で見ているんじゃない。当事者として、ここに立っているんだから。
押しては帰す波。白ひげが仕掛けた海震がエベレスト並の標高で戻ってきたそれが氷山と化すのは一瞬だった。
「おぉ、これが青キジか」
思わず感嘆。
「良い足場ができたな」
レッドがニヤリと笑う。先程から短剣をくるくると回している。疼いて仕方がないようだ。
「ねぇ、三人とも行っていいからね」
「いや、俺たちはお前の側を離れねぇよ」
「レッド……」
「そうだ、馬鹿言ってんな」
「エースが助かってFirst nameちゃんが、ってことになったら僕たちオヤジに向ける顔ないもん」
きっぱりと言った三人に申し訳なさと同時に歓喜が湧く。
「私、大事にされてんなー」
「分ったなら大人しくしてろよ」
「えぇー、それはまた別の話だよね」
隊長たちに続き、次々とクルーたちが飛び出して行く。その背を私は見送った。我先にと飛び出して行くものだと思っていたらしい三人たちは少し不意を突かれたかのように間抜け面を晒していた。
「行かねぇのか?」
「うん、飛んで行きたいのは山々だけど、空も安全じゃないし。そう安安と近付けてくれないでしょうよ」
「まぁ、それはそうだな」
チャンスは一度きりだ。まだ、私はここにいる。白ひげの背中を見つめた。私は随分と欲張りなようだ。私はエースだけじゃなく、白ひげも助けたい。二人とも失いたくない。
そう思っている一方で、私は彼の姿を待ちわびていた。
酷い奴だと私は私を嘲笑った。[ 328/350 ][*prev] [next#]
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