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「イナズマ殿!なんで階段を!?まだイワンコフ殿が!」
「いいから早くフロアへ出ろ!」
クロコダイルと離れてしまい最後尾近くまで遅れをとっていた兎少年。レベル3を抜けたところで息切れをしながら振り返ればイナズマが今上って来たばかりの階段をチョキチョキの身の能力で裁っていた。まだイワンコフが来ていないのにも関わらず。
思わず責めるように叫んでしまったことをすぐに後悔した。イナズマ殿の苦渋の決断であるのだ。僕は、心臓が痒くて痒くてしかたなくなった。きっとクロコダイルの背中を見れば治るような気がして、今度は振り返ることなく駆け出した。
レベル2は牢は開け放たれもぬけの殻だった。看守の姿もなく、兎は今のうちだと先頭を目指し脚に力を込めた。
「クロコダイル!クロコダイル!」
ようやく見つけた黒い背中にぴょんぴょんと跳ねながら近付けば何やら立ち往生しているようだ。
正面入口を開けて見れば海軍どころか軍艦一つ見当たらなかったらしい。どうやら奪われないようにと離れてしまったようだ。どうしたこうしたと囚人たちが項垂れ嘆いていればジンベエが「わしに任せろ」と名乗りを上げた。その作戦に兎はすかさず手を挙げて跳ねた。
「ぼ、僕も行く!」
「あぁん!?」
真っ赤なお鼻のピエロが見てきたけど、僕は気にすることなくクロコダイルの後に続いて重い扉のイカダに飛び乗った。
「うわぁあああ!速い速い!」
水飛沫と戯れていると、ぐらりと揺れた。
「うわっ!とっとっと」
「フン」
「おい!兎!気を付けろい!」
「ふん!だ!」
どうやらこのイカダら見つかってしまったらしい。砲弾が次々放たれ揺れる揺れる。クロコダイルにはまた鼻で笑われてしまい、赤っ鼻ピエロには叱られてしまった。ちょっと、耳が垂れた。
「おるわ、おるわ、軍艦の群れ!甲板へ打ち上げるぞ、しっかり掴まれ」
「え!?なな何!?何て言ったんだオイ!魚野郎!あれ!?消えたぞあんにゃろ!俺たちを置いて一人で逃げやがったんだ!」
「大人しくしてろ、貴様……」
「そうだい!そうだい!大人しくしてろい、赤っ鼻!」
「なぬぅうう!?誰が赤っ鼻だぁああ!?」
「うひー」
兎は咄嗟にクロコダイルのコートに隠れた。どうだ手も足も出まい。
「お前卑怯だぞ!」
「赤っ鼻ピエロにだけは言われたくないわい!」
「あぁああ!この野郎!ジンベエあんにゃろう!どうなってんだよ!あああああああああ!」
「お前、何故来た」
「うっひゃっひゃっひゃっ!う!?」
『うぎゃあああ!』
突然下から空に向かって突き上げられたイカダに絶叫したのは兎とバキーだけだったのは言わずもがな。
「なるほど、着いた」
スタンと優雅に着地したクロコダイル。その隣でバキャッと頭から突っ込んだバギーを見てケラケラ笑う兎。兎はクロコダイルに小脇に抱えられたため無事だった。
「艦を奪いに来たんだ!絶対渡すな!」
「能力者は海に落とせばこっちの勝ちだ!」
あっという間に、ぐるりと海軍らに囲まれた。しかし、クロコダイルは余裕らしい。
「誰を海に落とすって?」
「身の程をしらねぇようで」
おうおう、悪人面である。
「へぶしっ!」
戦いが始まると同時に小脇に抱えられていた兎が捨て置かれたのも言わずもがなである。[ 323/350 ][*prev] [next#]
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