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海賊『黒ひげ』が登場したらしい。聞きたくもないのに、僕の耳はそれを捉えて離してはくれない。こんなとき、僕は僕の能力が好きじゃなくなる。
「お前が黒ひげ!?」
「ゼハハハハ!久しぶりだな麦わら!俺も驚いたぜぇ、お前が我が隊長エースの弟だったとはな。フフ、ここにいていいのか?もうすぐ始まるぞ、お前の兄貴の公開処刑がよ。ゼハハハハ!」
嫌な笑い声だった。お腹の底に響く、人を見下して逆撫でするような、そんな笑い声。
モンキー・D・ルフィが兄貴の敵に怒らない訳がない。遠くで聞こえる喧騒、間近で聴こえるモンキー・D・ルフィの心の叫び。
あぁ、やだやだ、こんな能力、やだな。
「おい、兎」
「え」
「何縮こまってやがる」
「ふわっ!」
ふわふわパーカーのフードを掴まれ引っ張り上げられた。振り返ったそこにいたのはクロコダイル。
「ゴミになりてぇのか」
「え、ゴミですかい?え」
「こっち上がってろ」
崩れた瓦礫に上で落とされた。ようやく目を開けた僕の真っ赤な目に映ったのは、壮絶な戦いである。
「待て、ルフィ君!もうよせ!今はいかん!耐えろ!何が先だ!?よう考えるんじゃ!」
歯を剥き出しにして獣のように唸るモンキー・D・ルフィを七武海のジンベエが真正面から抑え込む。闘牛のような迫力だ。
「白ひげのオヤジさんの船にいた頃からこいつは得体の知れん男じゃった!どんな手を使うたかは知らんが、現に今はあのエースさんさえ討ち負かす程の力を手にいれとる!」
ジロリとジンベエが黒ひげを睨める。それだけで僕としては身震いものだ。クロコダイルが小馬鹿にしたように鼻で笑った。ひどいなぁ。
「黒ひげと言ったなぁ、白ひげの船の名もない海賊が俺の後釜に入ったとは聞いてるが、妙じゃねぇか?海軍本部の招集を受けてる筈の貴様が何故ここにいる。自ら欲した七武海の称号を既に捨てていると言える」
「全て計画の内だ。色んなズレは生じたがな。その全てをお前に教える義理があるか?ミスター・クロコダイル」
「……ねぇな。実際のところ興味もねぇ」
「愛想のねぇ野郎だ」
僕はクロコダイルの横顔をずっと見ていた。興味がないと言ったクロコダイルは嘘でも何でもなく、本当に興味ないようだった。その目に映るクロコダイルの興味の先は何なのか僕はほんの少し興味があった。[ 322/350 ][*prev] [next#]
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