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二対一、これじゃあまるで私とナナちゃんが苛めっ子みたいじゃないか。
「ほら、何だまってんの?さっきみたいに本人に言いなよ」
ナナちゃんがアイちゃんを煽る。ナナちゃんも結構良い性格になったなと顔を引きつらせる。
「だって、何あれ」
「あれ?」
「記憶のないあなたは弱かった」
「そりゃあ、ここに来た直後の私だし」
「あんな、あんな弱い人に今まで色々言われてたなんて何か馬鹿らしい」
「あはは、面白いこと言うね」
笑った後、私は真っ直ぐ彼女を見つめた。
「勝手に想像して勝手に幻滅するなよ。めんどくさい」
「なっ!」
「結局、まだ現実を見れてないんでしょ?まだ、アイちゃんは迷い子なんだよ」
「それは、First nameさんだって!」
「私は、もう迷ってないよ。その道が合ってるかどうかは分からないし怖いけど、ちゃんと自分で決めた道を歩いてる」
だから、もう迷子なんかじゃない。
「そんな、私だって……」
「本当に?」
そう聞いたのは私ではなくナナちゃん。
「あんたはマルコ隊長の優しさに甘えて、考えることをやめたんじゃないの?道を探すのをやめて、ただ着いていくことにしたんじゃないの?」
「……ッ」
図星だろう。
「……ないこと?それが、いけないこと!?着いて行こうと決めたのも私の意思!それをあなたたちにとやかく言われる筋合いなんてない!」
言い切ったアイちゃんに私とナナちゃんは視線を交える。
「そういうことだよ、アイちゃん。アイちゃんがそれを決めたように、私も決めただけ」
私は両手の手の平をなんとなく見つめた。相変わらず赤いな、なんて。
「私は、この手を、赤く染まった手を拭おうとはしなかった」
「え」
「一度染まってしまった手はどんなに洗い流そうとしても消えない。それを見て見ぬふりをして偽善者ぶるのは……私に殺された人への冒涜だと思った。私は、人殺しであることにした」
「……ッ」
「そして、そんな私を愛してくれるという人を私は愛すの」
「そんな」
「それじゃあ、だめかな?」
「そんな、First nameさん。だってあんなに弱い人間だったのに、どうして……」
そんなの決まってる。
「この世界で生きると自分自身に誓ったから」
この世界は私が想像していたよりもひどく残酷な世界だった。でも、あの世界で生きていた私よりも、今の私の方が私は私が好きだった。
アイちゃんは勘違いしている。私はまだまだ弱い。強くなんかない。そう、虚勢を張ってるだけ。
騙せているなら、それは精一杯の強がりだから。
そんな弱い私を知っていてくれている彼の隣はひどく安心したんだ。[ 307/350 ][*prev] [next#]
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